小説: 湘南ラピスラズリ

湘南、鎌倉を舞台にした純情ラプソディー/絵を書くことが大好きな高校生の、甘く切ない恋の詩

第13章 フィナーレ

2012年02月17日 10時40分13秒 | 小説

 学祭の前日、クラスデコの準備は、最後の仕上げに入っていた。
 純太は、全ての壁画を点検して、輪郭線を描き入れたり、色彩を調整したりと大忙しだった。
 全ての壁画を確認してから、一枚一枚順番に、教室の壁に固定して、終に完成した。
 絢爛たる敦煌莫高窟の世界が、教室に再現された。
 オアシスの緑を思わせるエメラルドグリーンと、天空の青を思わせるラピスラズリ。
 その二色を基調とした極彩色の壁画が、千数百年のときを経て蘇った。

 学祭の当日、校内は、多くの見物客で賑わった。
 学祭では、仮装行列やブラバンの演奏会、カラオケ大会、軽音楽部のライブなどもあった。
 クラスデコのメンバーは、基本的に自由行動だったが、純太は、他のイベントには目も繰れず、他のクラスデコの敵情視察をした。
 一通り巡回してみて、自分のクラスの出来が、一番だと感じた。
 純太たちのデコを見学に来た人は、壁画の美しさに歓声を上げた。
 暫くの間、壁画の前に立ち尽くして眺めていた。
 客の入りも上々だった。

 校内を巡り、何度目かに自分の教室に戻った時、純太は思わず足を止めた。
 樹下説法図の前にカップルが立っていた。
 後ろ姿ではあったが、それが亜美と根岸である事は一目で分かった
 。ご丁寧に、手まで繋いでいた。
 見せ付けるように亜美の手を握りやがって…と純太は唇を噛んだ。


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「どう、ケン。驚いたでしょう?」
「美術オタクだけあって、まぁまぁだな」
「もう、素直じゃないんだから」
「それより、この菩薩、何処となくお前に似てねぇか?何だか気に食わねぇな」
「そんな事ないよ。本に載っていた壁画も、こんな感じだったよ。まぁ、美人の顔は昔も今もあんまり変わらないってことね」
「よく言うよ。それよりも、俺の友達がこれから、体育館でビートルズのコピーライブやるんだ。早く行かないと前で見れねぇから行こうぜ」
 根岸は、亜美の手を引いて足早に出て行った。

 皆が一生懸命に作り上げた壁画を、適当に流し見するなんてと、純太は嫌な気分になった。
 しかも、会心の作品に対して、「まぁまぁだな」と愚にも付かない感想を口にして去って行った。
 根岸を見かける前は、青空のように晴れ晴れとした気持ちだったが、急に、砂嵐のような嫉妬心が荒れ狂った。


 学祭の最後に、全校生徒が集まって閉会式が行われ、そこで表彰式が行われた。
 純太は期待を抱きながら、クラスデコの受賞クラスが、順番に読み上げられるのを待った。
 3位、2位と呼ばれたが、純太たちのクラスはまだ呼ばれていなかった。
 最優秀賞がアナウンスされる直前、体育館は一瞬の静寂に包まれた。
「クラスデコ、最優秀賞。二年C組、敦煌の微笑み」
 そのアナウンスを聞いた瞬間、仲間たちと手を取り合って喜び合った。
 亜美は、感極まって涙を流していた。
 純太は、興奮した亜美に手を強く握られて、何度も感謝された。
 純太は亜美と共に壇上に上がり、校長先生から表彰状と記念盾をもらった。
 亜美が、壇上でうれし涙を拭いながら、記念盾を大きく掲げると、クラス全員が手を振って、大きな歓声を上げた。

 壇上から下りて、クラスデコのメンバーに表彰状や記念盾を手渡すと、皆、相好を崩して喜んだ。
 歓喜するメンバーの中で、根岸だけが、面白くなさそうな顔をしていた。
 純太は複雑な心境だった。
 最優秀賞を勝ち取ったのは無上の喜びだったが、寂しかった。
 学祭があったからこそ、放課後に亜美と一緒に過ごすことができた。
 明日からは、亜美と一緒に絵を描くこともなくなり、会話の機会もめっきり減るだろう。
 せっかく仲良くなれたのに…純太は寂しくて仕方がなかった。
 賑やかだった祭囃子が、急に音を潜めて、静まり返ったようだった。
 寂しさが、ぽっかりと胸の中に残った。

 第13章 終了

 

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