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『最貧困女子』著者が脳機能障害に! 自分が障害をもってわかった生活保護の手続もできない貧困女性の苦しみ
一部引用
鈴木氏を襲った高次能は「半側空間無視」だけではない。気になる人を凝視してしまう、注意力・集中力の欠如、物事を順序立ててできない、
自分の行動や作業を制御できない、猛烈な焦燥感や不安などなど。これら鈴木氏の高次脳の症状は、まさにこれまで出会ってきた困窮者たちの姿だった。
「あれ? この不自由になってしまった僕と同じような人を、僕は前に何度も見たことがあるぞ?
それはうつ病や発達障害をはじめとして、パニック障害や適応障害などの精神疾患・情緒障害方面、薬物依存や認知症等々を抱えた人たち。
僕がこれまでの取材で会ってきた取材で出会ってきた多くの『困窮者たち』の顔が、脳裏に浮かびました」
「恐らく後天的な脳の機能障害である高次脳機能障害の当事者認識とは、先天的な発達障害、または精神疾患、認知症等々、
大小の脳のトラブルを抱える『脳が壊れた人々』の当事者意識と、符合するのではないか」
それは鈴木氏が取材をした貧困女性たちの共通する“不可思議”な言動を読み解くものでもあったという。
例えば女性に生活保護を受給させるべく鈴木氏が同行 支援をした際、女性は約束の時間に来ない、役所に提出する書類の説明をするとフラフラと寝てしまう、
音読しても理解できない──それらについて鈴木氏は安 定剤などの薬を服用しているかと思っていたというが、発病後の鈴木氏はこんな疑問をもつのだ。
「彼女たちの症状は、あまりにも『漫画が読めなくなってしまった』僕と、合致するのだ。
貧困とは、多大な不安とストレスの中で神経的疲労を蓄積させ、脳梗塞の後遺症で高次脳機能障害となった者と同様なほどに、
認知判断力や集中力などが極端に落ちた状態なのではないのか?」
売店のレジで小銭を出そうとしても、目のピントが合わず、指が思うように動かず小銭を落としてしまった鈴木氏は、
ある取材者が同じように小銭をバラ撒いてしまった光景を思い浮かべる。
「何年も執拗に続いた夫のDVと離婚のショックからメンタルを深く病み、精神科から処方される抗鬱薬に依存するようになっていた彼女は、
床に落ちた小銭を震える指先で一枚一枚集めながら、ぼたぼたと大粒の涙を床に落とした。(略)いま僕は痛いほど彼女の気持ちがわかる。
トラウマチックな体験や強い精神的ダメージは、目に見えないが脳に傷となって残り、結果として様々な認知のズレを生む」
そして鈴木氏が最も恐れた症状が喜怒哀楽の感情の起伏が極端に激しくなりコントロールが効かない「感情失禁」とそれに由来する「話しづらさ」だった。
鈴木氏は口の周辺の麻痺といった身体的原因だけでなく、感情を司る脳の部分が損傷したため、噴出する感情のままに言葉を発し続けたり、
叫んで走り出しそうになる衝動に駆られたという。さらに注意欠陥により、会話に合理性が欠けてしまう。
しかしそれはコニュニケーションが下手で相手の言葉尻をブチきり、自分のことばかりを一気に話して周囲から排除される少女たち、そのものだった。
「僕 の場合は暴走する感情に任せた会話はルール違反だと感じて抑制しているわけだが、なるほど彼女たち、好きであんなに言葉
のナイフをめったやたらに振るって いるわけじゃなくて、感情が乗ると言葉を自律的に抑制できなくなるのかもしれない。それで集団から浮いたり、
他者から悪い印象を持たれるのが分かっていて もやめられないとしたら、それはそれで、とても孤独で苦しい経験に違いない」
コミュニケーションが苦手で“生きづらい”といわれる人々、貧困や強いトラウマから挙動不審になってしまう人々、様々な障害をもつ人々。
それらと高次脳機能障害とは酷似していた。
「高 次脳機能障害者の多くはこの不自由感やつらさを言葉にすることもできず自分の中に封じ込めてただただ我慢しているのかもしれない。
それは高次脳と症状の出 かたが酷似している発達障害や精神疾患などの患者も同様だろう。だとすれば、世の中にはいったいどれほどの数の、『言葉も出ずに苦しんでいる』人々がいる のだろう」