今年の3月23日付のヨルダンタイムズにイラクの研究者が狙われていることを記した記事が載っていました。シャキールさんだけではなく、イラクの研究者がおかれている状況は日本語ではほとんど報道されていないため、ここに転載させていただきます。
(石川雅也)
以下記事
ヨルダンタイムズ
2006.3.23(木)By Omar Al Ibadi ―バグダード
狙われる研究者、流出するイラクの頭脳
(訳:清末愛砂 久保田裕之)
二月はじめ、爆薬を積んだ車による爆破テロの標的になったバグダード大学の化学の教授Sami Al Muthafar 氏は、彼の護衛数人が怪我を負ったものの、自身は無傷で生き残ることができた。しかし、多くの科学者や研究者が自分ほど幸運ではないことを、Muthafar氏は知っている。「教育者や科学者にあたるわけですから、彼・彼女たちをを失うことは大きな損失なのです」サダム・フセイン政権下で高等教育大臣も務めたMuthafar氏は語る。「この損失を補うのは、とてつもなく困難です」。イラクの大学講師連盟(the Association of University Lecturers)が先週の記者会見で語ったところによれば、2003年に始まったアメリカ主導のイラク侵攻の中で、約182人のイラクの教育者と研究者が虐殺され、85人の在職研究者(Senior Academics)が誘拐されるか命の危険にさらされ続けている。西欧社会の大学のキャンパスを活性化している学問の自由は、イラクの学識者の間では二の次である。現在のバグダードでは、生き残ることが目的となっている。一旦は爆弾テロや銃撃戦で生き残り誘拐から解放されれば、二度目の幸運に賭けようとするものは少ない。このことは、明日のイラクと国家の再建を担う専門家を育成するために不可欠な、優秀な知識人の頭脳流出を招いている。「教育者を標的とすることは、イラクの高等教育システムを破壊し、さらには教育レベルを引き下げることで社会の他の部門までも破壊することになります」と、バグダード大学の歯学教授 Mohammad Fahad氏は語る。
イラクを離れて
イラク人の多くは、学識者が標的になることで、医者や技術者、教育者、その他の専門職を担う人々が不足するようになるのではないかと恐れている。落胆を隠せなかったFahad氏も、イラクからの避難を考えている。イラクの大学講師連盟(the Association of University Lecturers)の報告によれば、ある講師が学生によって襲撃され脅迫されるという事件があったことを報告している。
「テロリストは教育者や研究者を狙うことで、私たちから知識を奪おうとしているのだと思います」
また、ある別のバグダード大学の別の教授(希望により匿名)は、学生との論争を避けるようになったと語っている。学生を落第させるためには並ならぬ勇気が必要になるという。
他方で学生側もまた、教育システムが崩壊しつつあることを感じ取り、彼らの将来に不安を抱いている。「教授が殺されることは、私たち学生にとっても重大な問題です」。大学生であるRyadh Jomaaさんは言う。「ある分野の専門家である教授が殺されても、代わりの教授を探すことは容易ではなく、その被害は学生が被ることになるのです」
「テロリストは教育者や研究者を狙うことで、私たちから知識を奪おうとしているのだと思います」。同じくバグダードにあるMustansiriya大学のコンピューター専攻の三年生、Qasim Abidさんは言う。
無法状態のただなかで、イラクでは、ひとりひとりの死に対して政治的対処や法的処罰を求める意識を維持することが容易ではなくなっている。
バグダード大学の地学教授でありイラクの大学講師連盟(the Association of University Lecturers)の長を務めるIsam Kadhem Al Rawi博士によれば、イラクの優れた知識人を排除しようという声は、国内と国外双方の勢力から聞こえてくる。この背後にあるのは、ある個人と特定の宗教や非宗教的党派を不可分一体とみる考え方、すなわち、ある政治的立場を押していると思われる個人を殺害することでその政治的立場の広がりを押しとどめられるという考え方であると、Rawi博士は分析する。「現在イラクで起こっているのは、まさに戦争犯罪です」と。
博士は、状況が好転しないならば、大学講師たちはストライキや座り込みなどによって抗議すると言う。しかし、イギリスのケンブリッジ大学やアメリカのハーバード大学ならば、このような行動も実を結ぶかもしれないが、イラクで知識人の虐殺を止めることが出来るかどうかは疑わしい。
Mustansiriya大学アラブ故郷学研究センター(Arab Homeland Study and Research Center)の所長を務めていたAbdul Latif Al Mayah 博士は、彼の家族の話によれば、2004年1月にアラビア語のテレビニュースチャンネルであるアルジャジーラに出演した翌日に殺された。職場に向かう途中に撃たれたが、その数は32回にも及んだという。博士の娘Hibaは父親の遺影の横に座って、「父の死は、組織化されたプロの仕業です」、「警官は、ある種の諜報機関に所属する者の活動のようだと言っていました」と述べた。
(石川雅也)
以下記事
ヨルダンタイムズ
2006.3.23(木)By Omar Al Ibadi ―バグダード
狙われる研究者、流出するイラクの頭脳
(訳:清末愛砂 久保田裕之)
二月はじめ、爆薬を積んだ車による爆破テロの標的になったバグダード大学の化学の教授Sami Al Muthafar 氏は、彼の護衛数人が怪我を負ったものの、自身は無傷で生き残ることができた。しかし、多くの科学者や研究者が自分ほど幸運ではないことを、Muthafar氏は知っている。「教育者や科学者にあたるわけですから、彼・彼女たちをを失うことは大きな損失なのです」サダム・フセイン政権下で高等教育大臣も務めたMuthafar氏は語る。「この損失を補うのは、とてつもなく困難です」。イラクの大学講師連盟(the Association of University Lecturers)が先週の記者会見で語ったところによれば、2003年に始まったアメリカ主導のイラク侵攻の中で、約182人のイラクの教育者と研究者が虐殺され、85人の在職研究者(Senior Academics)が誘拐されるか命の危険にさらされ続けている。西欧社会の大学のキャンパスを活性化している学問の自由は、イラクの学識者の間では二の次である。現在のバグダードでは、生き残ることが目的となっている。一旦は爆弾テロや銃撃戦で生き残り誘拐から解放されれば、二度目の幸運に賭けようとするものは少ない。このことは、明日のイラクと国家の再建を担う専門家を育成するために不可欠な、優秀な知識人の頭脳流出を招いている。「教育者を標的とすることは、イラクの高等教育システムを破壊し、さらには教育レベルを引き下げることで社会の他の部門までも破壊することになります」と、バグダード大学の歯学教授 Mohammad Fahad氏は語る。
イラクを離れて
イラク人の多くは、学識者が標的になることで、医者や技術者、教育者、その他の専門職を担う人々が不足するようになるのではないかと恐れている。落胆を隠せなかったFahad氏も、イラクからの避難を考えている。イラクの大学講師連盟(the Association of University Lecturers)の報告によれば、ある講師が学生によって襲撃され脅迫されるという事件があったことを報告している。
「テロリストは教育者や研究者を狙うことで、私たちから知識を奪おうとしているのだと思います」
また、ある別のバグダード大学の別の教授(希望により匿名)は、学生との論争を避けるようになったと語っている。学生を落第させるためには並ならぬ勇気が必要になるという。
他方で学生側もまた、教育システムが崩壊しつつあることを感じ取り、彼らの将来に不安を抱いている。「教授が殺されることは、私たち学生にとっても重大な問題です」。大学生であるRyadh Jomaaさんは言う。「ある分野の専門家である教授が殺されても、代わりの教授を探すことは容易ではなく、その被害は学生が被ることになるのです」
「テロリストは教育者や研究者を狙うことで、私たちから知識を奪おうとしているのだと思います」。同じくバグダードにあるMustansiriya大学のコンピューター専攻の三年生、Qasim Abidさんは言う。
無法状態のただなかで、イラクでは、ひとりひとりの死に対して政治的対処や法的処罰を求める意識を維持することが容易ではなくなっている。
バグダード大学の地学教授でありイラクの大学講師連盟(the Association of University Lecturers)の長を務めるIsam Kadhem Al Rawi博士によれば、イラクの優れた知識人を排除しようという声は、国内と国外双方の勢力から聞こえてくる。この背後にあるのは、ある個人と特定の宗教や非宗教的党派を不可分一体とみる考え方、すなわち、ある政治的立場を押していると思われる個人を殺害することでその政治的立場の広がりを押しとどめられるという考え方であると、Rawi博士は分析する。「現在イラクで起こっているのは、まさに戦争犯罪です」と。
博士は、状況が好転しないならば、大学講師たちはストライキや座り込みなどによって抗議すると言う。しかし、イギリスのケンブリッジ大学やアメリカのハーバード大学ならば、このような行動も実を結ぶかもしれないが、イラクで知識人の虐殺を止めることが出来るかどうかは疑わしい。
Mustansiriya大学アラブ故郷学研究センター(Arab Homeland Study and Research Center)の所長を務めていたAbdul Latif Al Mayah 博士は、彼の家族の話によれば、2004年1月にアラビア語のテレビニュースチャンネルであるアルジャジーラに出演した翌日に殺された。職場に向かう途中に撃たれたが、その数は32回にも及んだという。博士の娘Hibaは父親の遺影の横に座って、「父の死は、組織化されたプロの仕業です」、「警官は、ある種の諜報機関に所属する者の活動のようだと言っていました」と述べた。