トランプ関税後の市場動乱、マネーはドル離れの第２ステージに 市場は米孤立主義に警鐘

　１１日の東京市場ではドル売り・円買いが目立ちドル／円は一時、１４２円８８銭近辺までドル安・円高が進行した。アジアタイムで１０年米国債利回り（長期金利）もいったん４．５％に接近する場面があり、米株下落と合わせてドル建て資産のトリプル安が進行している。中でもドルは対主要通貨に対してこの５日間で約２．８％の下落。トランプ米大統領による相互関税発動後にみられた安全資産への逃避は、ドル下落という第２ステージに移行した可能性がある。

　マーケットはトランプ関税がドル基軸通貨の基盤を動揺させていると見始めており、それは金の最高値更新とも連動している。マーケットが発信している「警報」に対し、トランプ大統領が大幅な政策修正で対応するのか、それとも無視しつつ新たな市場の動揺を生み出すのか──。世界の金融・資本市場は第２次世界大戦後で最大の試練に直面しようとしている。

　＜ドル安・米債安・米株安、市場がトランプ関税に警鐘＞

　１１日の東京市場では、ドル／円が一時、１４２円８８銭と約半年ぶりのドル安・円高水準に達した。アジアタイムで米長期金利もいったん４．４８％付近まで上昇。１０日ＮＹ市場での米株下落と合わせて典型的なドル建て資産のトリプル安となった。

　中でも市場関係者の一部が注目するのは、ドル下落の足取りだ。ベッセント米財務長官が米国債売りを連想させるドル売り・円買い介入を嫌っているとの見方が浮上していることもあるが、ドルが対円だけでなく主要通貨に対して全面安となっている原因がトランプ大統領による関税政策にあるという見方が広がっている。

　＜ドル指数、直近５日間で２．８％下落　金は最高値更新＞

　１１日の市場でドル指数は１００．２０付近での推移となっており、この５日間で約２．８％の下落となっている。

　複数の市場関係者は、相互関税の発表後に起きた株売り・米国債買いなどの安全資産への資金シフトを第１ステージとするなら、足元では明らかにドル離れという第２ステージの動きが顕在化していると指摘する。

　ドルを離れたマネーは金にシフトしているもようで、１１日の市場で金価格は初めて１オンス＝３２００ドルを突破した。

　株価が急落し、マージンコール（証拠金の追加提出要求）に直面した一部の投資家は金を売却して現金確保に走った局面があり、８日には３０００ドルを割り込んでいた。

　それがここにきて反発してきたのは、ドル離れを起こしたマネーの一部が再び、金市場に流れたことを意味している。

　＜トランプ関税の行き着く先、米国内への「閉じこもり」に＞

　では、どうして「第２ステージ」でドル離れが進行しているのか──。それは米欧市場において少なくない参加者が、トランプ大統領の関税政策の行き着く先は米経済の繁栄から衰退ではないか、と予想し始めたためだと思われる。

　トランプ大統領は、過渡期における痛みは我慢するべきだ、との立場だが、このまま関税引き上げ政策を遂行していけば、米国内に米企業は閉じこもり、成長力の高さが特色のアジア地域やこれまで緊密だった欧州大陸諸国との貿易が停滞。生産性の低い米大陸経済圏が形成され、低成長の米国に転落するというイメージが形成されつつあると指摘したい。

　つまり、トランプ大統領の関税政策は米国を「孤立主義」へと導き、米経済は繁栄から転落すると警鐘を鳴らしているということだ。

　＜トランプ大統領、基軸通貨の地位を手放す気なのか＞

　２日の当欄で筆者は、４月２日が「自由貿易終焉の日」になると指摘したが、マーケットでもその見方が浸透しだし、それに応じてドル離れが進行していると分析する。

　ただ、現状では米国が世界最大の軍事大国であり、ドル離れの兆しが見られているもののドルは基軸通貨の位置にある。

　トランプ関税を推し進めていけば、この先に基軸通貨の地位を手放し、覇権国家の座から地域有力国の１つに後退していくシナリオもありえる。

　しかし、米国民の多数が、このトランプ政策をどこまで支持するのか、というのはだれにもわからない。

　＜米国は唯一の同盟国である日本、関税交渉で難題抱える公算大に＞

　さらに難しいかじ取りを強いられているのが日本だ。日米同盟が唯一の同盟関係である日本にとって、米国から無理難題を押し付けられても「経済合理性に反する」と拒絶することは事実上、出来ない環境にある。

　これから始まる日米関税交渉で、米国が納得するカードを提示できずに、相互関税や自動車関税を３０％に引き上げられては、日本経済が受ける打撃は計り知れない。

　他方、日本の財政の維持が難しくなるような米側の要求の「丸飲み」は、いずれ日本経済の窮乏化につながるだろう。

　１０日の当欄で指摘したように、石破茂首相は極めて重い決断をどこかで強いられる。その際に石破首相は国民に対して、何を優先して何を犠牲にしたのか、はっきりと国民に対して説明する責任があり、それができないなら政権を担当することが難しくなると指摘したい。