ただの偶然なのですか

私のお気に入りと日々の感想  

小説「ヘヴン」川上未映子著の感想

2009年10月04日 | 読書
この本は、読んでみると小説というよりも哲学書に近いものを感じました。
中学生を主人公にして書かれていますが、これほどまでに哲学的で深い会話は、中学生どころか大人でも出来ないと思います。話られている内容もその長さも会話の範囲を超えています。
そして主人公が同級生達から受けている虐めと暴力の描写が、まるで感情までも殺されしまったかのように、その質感だけが延々と描かれていて、あまりの陰惨さに何でここまで描写する必要があるのかと、読んでいて憂鬱な気分になりました。
しかし、中学生に哲学を語らせ陰惨な苛めと暴力を描くことで、イジメを何かの本質的な問題の象徴にしようとしているのでしょうか。
苛められる側は苦しみや弱さにも意味があることを求め、苛める側は全ては「たまたま」だと言う。
この世界の物事の全部に意味はあるのか、ないのか。
「ただの偶然なのですか」と神に問うこと自体に意味が無いような気がしてきました。
苛める側の価値観はとうてい理解したくありませんが、弱さに意味を求めて自ら苛めの対象になることを引き受けていく少女には狂気すら感じました。
私は、どちらの世界にも引きずりこまれたくないです。
哲学という目を通して見た世界は私には地獄でした。
哲学という目を捨てたときに少年が見た輝きと美しさが、この世界の本質であってほしいと祈るばかりです。