『総員玉砕せよ!』

2010-08-22 15:22:11 | 本の話
『狂気の戦場』
副題が『総員玉砕せよ!』です。
この漫画は様々な出版がされているようです。

『狂気の戦場』はオハヨー出版が昭和57年に
B5版ハードカバーで出したものです。
350頁
B5の大きさで初めて水木さんの絵が分かるのでは
ないかと思いますね。


この傑作に対し様々な評価もあるでしょう。
「作品」であるから事実とは相違がある、と
言われる人がおられるかもしれません。

しかし「真実」がここにあります。
これは誰も否定できないことでしょう。

私は戦争体験はありませんが間接的に分かる部分があります。


アルコール中毒気味で酔っては家族に迷惑をかけた父は
シベリア帰り。

子供の頃は、シラフのときの尊敬でき、また威厳あった父と
酔って人間でなくなる(そのときはそう見えた)父と
この落差が理解不能でした。

大人になってやっと少し理解できるような気がします。

弱い人間でアルコールに頼るしかなかったのでしょう。
酒で家族から孤立していきながら
また酒におぼれるのです。

戦争を心に抱え込んでいたようです。

その父がごく珍しく戦争の話をすることがありました。
したくはないけれど言わねば息子がヘンになりはしないか
そう考えて重い口を開いていたのでしょう。

満州・シベリアの戦争体験と南方のそれとでは違いもある
でしょうが、水木しげるの伝えたかった「真実」は
父の話とぴったり重なるのです。


さまざまな本やドキュメンタリーに描かれるものとも
多く重なります。

原一男監督『ゆきゆきて神軍』の世界にも通じます。

それにしても天皇パチンコ事件の奥埼謙三も強烈な人
でありましたが、戦争がなかったら違っていたのでは?

私が官僚主義を嫌うのはそこに旧軍の体質が見え隠れ
するからです。
極端な話、官僚組織を守るためには日本を後回しにしても
構わないと云うような処があるのです。

戦争の悲惨な証言というだけでなく
旧軍隊にあった理不尽な世界も見えてくる作品です。


渾身の力作とはこういう作品をいうのでしょう。

それを味わうにも、文庫ではなく、ぜひ大判で。