『東風西雅抄』

2010-06-05 11:14:37 | 本の話
古くて新しい話です。

1995年に亡くなられた歴史学者の宮崎市定さんの著書
岩波現代文庫『東風西雅抄』に1977年雑誌『展望』へ
発表された文が収められています。

第一次世界大戦ころの日米中関係について述べてありますが
それが現在と通じることに驚きます。

20世紀初頭の話を半世紀以上もたった時点で振り返った文が
発表後更に半世紀近くへた今「歴史は繰り返すなあ」と気付
かせてくれるということは、宮崎さんの話に耳を傾ける価値
があるという証左でしょう。

少し長めですが引用します。

77年『展望』第218号に収録されている『支那人気質』
(『展望』真っ白い表紙でね。懐かしい。
 『世界』より好きでした)

「・・アメリカ宣教師、A.E.Smithが1894年に・・
 著して評判になった。・・明治31年に日本で『支那人気質』という
 題で翻訳が出たかと思うと、すぐまた同じ題名で漢訳出版された。
 日本人はこれを他山の石として、自らを顧みるために愛読したが、
 当時の中国人も心ある者はこれを有益な忠告として受けとめようと
 した襟度のあったことがそこに見られる。」

 として本の内容が2頁ほど引いてあります。
 それが今でも聞くような悪口オンパレードなのです。

「これらの報告はいかにも悪意を以て中国人を告発して
 いるかに見える。」

今なら勝谷氏も真っ青という内容なのですが、ある意味で
百年前も今も中国人への悪口が同様にあてはまるというのは
驚きますね。彼らは断固(自国の文化)を維持するのです。
たとえ欠点につながろうとも。

もちろん悪口をいうための本ではなく、それらの欠点を
キリスト教文明が救うのだ、という本なのです。
(その、救う国の代表がアメリカだというつもりでしょう)

引用を続けます。
そういう状況の国であったが1911年辛亥革命をなし、
極東の政治状況が変わったことを受けて

「然るに今や太平洋時代が到来した。太平洋を挟んで
アメリカと中国の二大共和国が出現し・・手を握れば
その中間に横たわる半開国の日本などは取るに足らぬ
存在でしかなくなるに違いないのだ。そこで政治的
外交的、経済的に日本に対するアメリカの圧迫が日毎に
強化されるのである。」

理想主義者のウィルソン大統領は第一次大戦後
日本にケチをつけて圧迫、次第に太平洋戦争前の緊張へと
拡大してゆくのです。
日米戦争はウィルソンから始まったかもしれません。

現今の情勢はどうでしょう。

中国の変化、台頭。
→米中の接近、日本の相対的地位の下降。
理想主義的大統領の登場。
日本への難癖、極度な警戒と露骨な圧力。
米国社会の日本人忌避=クジラなど。


念のため書いておきますが宮崎さんは同じ年翌月の
『展望』には日本人の欧米化について

「ところで欧米学校の優等生は、果して欧米で尊敬
 されたかと言うと、それは疑わしい。・・
 尊敬を受けるには、強い個性、豊かな想像力の持主
 でなければ資格がない。そして個性と言う点では
 日本人はどうも中国人に及ばないらしいのである」

と書き、この文章全体を次の一文で終えます。

「政治家から始まって、人物の点で日本は、だんだん
 中国に後れをとること必至の運命のように思われる。」

77年というとベトナム戦争が終わり毛沢東が死去した
直後という感じです。
すでに21世紀日本を予言していたのかなあ。

悪しき歴史を繰り返すわけにはいきません。
対米関係悪化は避けねばならない。

ただね、首根っこを押さえられたまま、米中時代で
良いのか・・