石造美術紀行

石造美術の探訪記

京都府 京都市東山区新橋通東大路東入林下町 知恩院五輪塔

2008-03-30 22:38:22 | 五輪塔

京都府 京都市東山区新橋通東大路東入林下町 知恩院五輪塔

知恩院04の御影堂から西の阿弥陀堂へと続く高い渡り廊下の北側、収蔵庫との間の目立たない場所に立派な五輪塔がある。さすがに浄土宗総本山だけあって参詣者も多いが、この五輪塔を気に止める人はまずいない。しかし、かつては北野東向観音寺塔や革堂行願寺塔などとともに忌明塔として知られたもののひとつであったという。06知恩院は法然上人が吉水の一画に草庵を結んだのが発端となり、最初は、今の勢至堂付近だけのもっと規模の小さかったものが、慶長年間に寺域を拡大、今日の大伽藍となったという。五輪塔は台座は見られず、直接地面に据えられ、細長い切石を井桁に組んで地輪の周りを囲んでいる。地輪は比較的背が低く、水輪は適度な横張があって曲線に硬さはない。ただ最大径が下方にあって重心が低い。あるいは上下逆に積まれている可能性がある。火輪の垂直に切った軒口はぶ厚く、隅に向かって反転する軒反は力強い。四注の屋だるみはさほど顕著でない。空風輪の曲線はスムーズで、ややくびれは強いがとりわけ07_2空輪の完好な宝珠形は申し分ない。各輪とも素面で種子、紀年銘等は見られない。高さ約277cm、地輪幅約104cm、同高約79cm、火輪幅約101cm、規模も大きく、各部のバランスも素晴らしい。緻密で良質な花崗岩製。各部素面、梵字も無く、銘も確認できない。しかし、表面の風化も少なく、遺存状態は極めて良好、エッジの利いた鋭い彫成をよく今に伝えている。かつてこの地には西大寺末寺の律宗寺院の速成就院があったとされ、この五輪塔はその旧物だということである。なるほど律宗系寺院などによくみる鎌倉後期様式の完成された典型的な大型五輪塔である。造立は恐らく13世紀末ごろと思われる。真偽のほどは怪しいが忍性の墓塔との伝承もあるらしい。いずれにせよ京都でも有数の見るべき五輪塔である。

参考:川勝政太郎 『京都の石造美術』 145ページ

   竹村俊則・加登藤信 『京の石造美術めぐり』 50~51ページ

   (財)元興寺文化財研究所 『五輪塔の研究』平成4年度調査概要報告


滋賀県 野洲市三上 御上神社縁束石

2008-03-30 11:50:13 | 台座・礎石

滋賀県 野洲市三上 御上神社縁束石

美しいコニーデ形の山容で近江富士として親しまれる三上山は、湖東のみならず、たいていの琵琶湖周辺地域からその優雅な山容を望むことができる。03孝霊天皇6年、ここに御上神社の祭神、天之御影命が降臨したと伝えられる。05三上山の西麓、神体山を拝する場所にある御上神社の創建は古代に遡り、平安時代には相当の社格で信仰を集めたことが確認される。おそらく先史時代の山岳信仰や磐くら信仰のようなプリミティブなところからスタートしていると思われる。楼門、拝殿、本殿が南北に並び、本殿左右に摂社がある近江でよく見かける典型的な社殿配置である。本殿、拝殿は鎌倉時代初め、楼門は南北朝期のものとされ、国宝、重要文化財に指定されている。近江はこうした古い神社建築が実にたくさん残っている点で奈良・京都に引けをとらない。優れた石造美術が多く残ることと様相が似ている。さて、三上神社の本殿は仏堂の要素をミックスした独特の社殿建築で、本地仏を阿弥陀如来とする神仏習合のなごりをとどめている。背面07を除く周囲に縁が設けられ、その柱を受ける束石(一種の礎石)は、石造美術として川勝博士により紹介されている。花崗岩製。直径36cm。本殿の4隅、左右に3個づつ、正面4個14、都合14個ある。平面六角形、側面は素面で上部は抑揚のある複弁反花で装飾されている。小花は見られず、一辺の中央に1弁、左右角に弁先がくるよう配されている。石灯篭や宝篋印塔などの石塔の基礎や台座と同じような意匠である。上端には円形の柱受座を刻みだし、その周縁部には連珠文を飾っていた痕跡がある。正面右端の個体の側面に横向きにして「建武二二年」(建武4年(1337年))銘があるとされるが半ば埋まってはっきり確認できない。この頃、本殿に縁部を補加したものと考えられている。三上山周辺の妙光寺山から東光寺山にかけて中世の寺院跡が集中し、戦国期に焼滅・退転するまでは神仏習合の一大信仰地域の様相を呈していたと推定されている。御神神社も応仁・文明の乱でしばしば戦場の巷となったらしく、近隣の寺社等の多くが焼亡したと伝えられる中、今日まで古い社殿が残っているのはまさに奇跡といえる。この他、鎌倉時代の木造狛犬が伝わる。これは石造の狛犬を考える上でも参考になる優品である。

参考:川勝政太郎 新装版『日本石造美術辞典』 250~251ページ

   平凡社 『滋賀県の地名』 日本歴史地名体系 25