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「戦時期日本の精神史 1931-1945年」を読みました

2009-11-27 16:51:51 | Weblog
鶴見 俊輔著    岩波現代文庫

いわゆる戦時期(満州事変からポツダム宣言受諾による敗戦まで)における精神史を『転向』というキーワードで広く、そして深く、そして俯瞰させた上に立たせてくれる書物です。カナダでの大学生を相手に英語で講義した内容を日本語に翻訳したものだそうです。鶴見さんという方の特殊な環境の方の、とても広くて、とても深くて、様々な物事を受け入れつつ判断された内容を解りやすく、その上調べることが出来るような注釈をつけたものです。


「転向」という言葉の持つ「裏切る」というかのようなイメージを持ちやすいことではありますが、そこをきちんと定義付けるところから始まるのがまた親切ですし、「転向」したことに見せかける、あるいは教義に殉ずるのではなく、あえて変わったとしてもそのことで生きて後を考える方々がいた、もしくはそういう考え方そのものを当然ながら認めるという、単純に割り切れる話しではないことへのアプローチの仕方が私個人にはとても面白く、深く感じました。鶴見さんの言う『まちがいの中に含まれている真実のほうが、真実の中に含まれている真実よりわれわれにとって大切だと考えるからなのです。』という言葉を私も同じように感じます。その後さらに自身への問いかけとして、『長い人生を生きて転向を通り抜けないものがあるだろうか?彼らの転向を彼らはどのように正当化したのだろうか?戦争を通り抜けたあとで、転向を振り返ったときに彼らはどのように考えただろうか?』というのがこの本のテーマだと思います。「転向」の定義付けには本書を読んでいただくのが最も理解できることだと思いますが、スリリングな考えることの話しです。また、いわゆる『鎖国性』という文化についての考察も鋭くその辺りもとても面白かったです。


転向を定義付け、鎖国というものの及ぼした文化の波及を述べ、「国体」というものの捉え方(吉田寅次郎と山県大華の論争から伊藤博文と金子堅太郎の論争)を考え、そこから国家という密教の仕組みと2重構造を経て、さらに「大アジア」ということをまとめてから、いわゆる転向について語られていきます。ひとつひとつの話しがとても詳しく、そしてなるほど、と納得させられます。随所に出てくる様々な人々の掬い取り方がとてもきめ細かく、そして左右の区別もなく、とても自然で暖かく掬い取りつつも、とても冷静なのです。広い視野で、触りに紹介する人、物、事を(注釈で解説してあるにしても!)読み込み、理解するのに恐らくとても時間がかかったと思いますが、その理解の上に独自の解釈を重ねてテーマに沿ってまとめるという形の凄さと、その凄さを感じさせつつも非常に読ませるチカラもある文章でした。もちろん全てを理解出来た訳ではありませんが、とても面白かったです。


中村重治と東大新人会の葛藤と転向の話し、遠藤周作さんの「沈黙」にも繋がるような明治維新後の五島列島とかくれキリシタンの話し、また明石順三というキリスト教一派の信仰の顛末、吉本隆明や埴谷雄高の立ち位置、山川均という人物の覚悟、大河内一男の立場、いち通訳であったはずの男菅季治に背負わされる重み、イギリスと日本の配給性の合理の有無の差、九津見房子の弾力ある転向、E・H・ノーマンの悲劇、そしてリリアン・ヘルマンのいう「大きな代償を払ってひそやかなものを獲得した。それはほかにいい言い方がないので、まともであること」のまともであることの意味と重さ、様々な知らなかったことを知ることが出来ました。


戦後を考える上でも、そしてスリリングな思考の積み重ねを、知らないよりも知ることの意味を見出せる方には強く、オススメ致します。
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