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定期上映会: 愛についてのキンゼイ・レポート

2005年08月29日 09時26分29秒 | 映画レビュー
毎週土曜日に開いている、120インチの大スクリーンと5.1chのサラウンド音声の組み合わせでお届けするINDEC定期上映会。8月21日には先週の土曜27日に公開が始まった『愛についてのキンゼイ・レポート』(原題:Kinsey)をアメリカ盤のDVDを利用して英語字幕にて日本公開前に上映しました。

この映画は、アメリカの性科学のパイオニア、州立イリノイ大学にて研究を続けたアルフレッド・キンゼイ博士の半生を描いた作品です。邦題ではあれこれ修辞句がついておりますが、原題ではスッキリKinsey。あれこれ先入観を持たせずにアメリカの観客に見てもらいたいという製作者サイドの意向でしょう。こうしたスキャンダラスな内容を含んだ映画の場合の常道です。

たとえば、定期上映会にかけた映画で言えば、『パットン大戦車軍団』が良い例です。その原題がまさしくPattonというシンプルなものでありました(そのことをこのブログで指摘していたことを思い出していただければ幸いです)。

そしてその時脚本を書いたのが、フランシス・フォード・コッポラ。その彼が、Kinseyで製作総指揮をしています。決して偶然ではないはずです。物議を醸しだす人物を描くのは、コッポラのライフワークのようなものですから(『ゴッドファーザー』、『地獄の黙示録』、『タッカー』などなど)。

ただし、映画の中のキンゼイが実在の人物にどれだけ近いかは知りません。調べようとも思いません。映画の評価に原作との比較をするのは野暮であると思っていますので。ですから、あくまでこの映画で描かれたキンゼイ像だけを考えてみるのがこの文章の務めです。

言葉遊びを許してもらえれば、この映画は「キョ」という音が頭の中で鳴り響く作品だと思っています。「巨」大なペニスを持つ、根「拠」にこだわる昆虫学者が、それまで実態から「距」離があった性の秘め事をことごとく列「挙」しようとします。しかし、やはり社会の「拒」否に遭い、空「虚」な思いに絶望します。それを夫婦の愛で乗り切ろうとする姿を描いた映画なのです。

しかし、ゴウ先生にはこの映画、まさしくいまのアメリカを描こうとしている気がしてなりません。そして、こうした理屈っぽい解釈をさせてしまうことにこの映画の限界を覚えます。素晴らしい作品だと思いつつも、手放しで感動できない結果となるのが残念です。

この解釈をご理解いただけるようにするために、映画のあらすじをかいつまんで述べましょう。

実際のキンゼイはどうであったかは知りませんが、映画の中のキンゼイは30cmはありそうな人間離れしたペニスを持っている設定になっています。

ところが、彼は性体験が未熟なために妻とのセックスがスムーズに行えません。巨大なペニスをもてあましてしまうのです。そして医者のもとを訪ね、アドバイスを求めます。おかげで問題も解決し、晴れて週に20回以上のセックスを楽しむ夫婦となります。

その時の経験から、キンゼイは性への科学的アプローチが必要だという結論に至ります。そこから徹底した聞き取り調査を行い、衝撃的な結果を発表し続けていきます。「仮説・観察・検証」という徹底した科学的アプローチは、まさしく彼の前半生で取り組んだ昆虫学からの応用です。

しかし、タブーとされた性を赤裸々に語り続けた彼の研究は、多くの賛否両論を巻き起こし、彼はスキャンダラスな人物としてアメリカ人に認知されていくのでした。

ゴウ先生、この語り口はうまいなあと思います。アメリカ人は、自分の信念を貫いた結果、社会から拒絶されるというシチュエーションが大好きです。それは孤高の保安官を描いたゲーリー・クーパー主演の西部劇『真昼の決闘』に顕著に現れていま
す。数年前ブッシュ大統領が小泉首相をその映画のクーパーになぞらえたのも、そうした背景があるからにほかなりません。

ですが、キンゼイには人並みはずれた巨大なペニスという武器があるのです。クーパーとも小泉とも(多分)違います(?)。そのことを考えると、もし彼が短小であったとしても、同じようにセックスの研究をしただろうかと疑問を覚えます。堂々とセックスについて学生の前で講義ができただろうかと訝ります。

彼の研究は、自分のペニスが巨大であり、彼の異常と言われてもよい性癖がごく普通のものであることを、彼自身が納得するために行っているような描かれ方をしているのがこの作品なのです。

まもなく9/11がやってきます。あの忌まわしい事件の後、ブッシュ政権は巨大なペニスを誇示しながらアフガニスタン、イラクへと侵攻し、世界に政権の異常な性癖を納得させアメリカのペニスの巨大さを称えさせようとしてきました。

しかし、結果はどうでしょう。ペニスの巨大さは認めつつも、アメリカの強姦とも言えるような痛みをともなうセックスの強要に、多くの国が拒否をつきつけ、とうとうブッシュ政権支持率40%という国民からの拒絶の声にも遭遇する羽目になったのです。これこそ、まさしく、キンゼイの生涯です。

こうした異形の巨人を描くために、コッポラは、脚本も書いた監督ビル・コンドンとともに、リーアム・ニーソンというイギリス人を連れてきました。彼の発音は、アメリカ英語のそれではありません。彼の発する性関連用語はスケベ心を喚起しません。そうした不思議な何かをもっているのがニーソン=キンゼイであります。このえもいわれぬ透明感をもっていることこそ、その卓越した演技力とあいまって、ニーソン抜擢のゆえんでしょう。

もちろん、観客心理を知り尽くしたコッポラ=コンドンの戦略に、クワイ=ガン・ジンのもつジェダイのフォースを観客が見つけてくれることを期待している節もあります。あたかもセックスの「スター・ウォーズ」を見てもらいたいという戦略があった気がするのです。

極端なことを言えば、キンゼイのペニスはまさにライト・セーバーなのであります。ゆえに、『スター・ウォーズ I』と同じく、そのライト・セーバーにとどめをさされる皮肉な結果になるのは、予定調和でありました。

そして、ニーソンはその期待に十分応えています。巨大なペニスを内側に呑み込んでいるイメージをニーソンは十分に漂わせきれる巨体と演技力をもっているのですから。

ただし、『スター・ウォーズ』との最大の違いは、キンゼイにはすばらしい妻がいたということです。彼の巨大なペニスをやさしく包み込んでくれる愛があったということです。その難しい役をローラ・リニーが見事に演じきっています。この映画がゴウ先生のような皮肉な見方を難しくさせているのも、リニーの演技力があります。強引に研究を進めていくキンゼイをやわらかい微笑で見つめる姿は、まさに駄々っ子をなだめる母の姿でした。

ニーソンとリニーの二人がいなければ、この映画はつまらない駄作になってしまったことでしょう。映画は監督のものではありますが、この映画は役者の力に頼りそれを存分に引き出した傑作です。

というわけで、ゴウ先生ランキング:B+

ゴウ先生はDVDで見ましたので、映画館の状況は分かりません。しかしアメリカ盤のDVDは音声がDTS録音されていて、実にクリアなサラウンドが得られます。しかも画質は透明感が高く、男女の性器の大写しが出てくる場面もありますが、いやらしく見えません。この感覚を一般の映画館で得られるかどうか、ゴウ先生、疑っているところです。まあ、この素晴らしい上映環境を楽しんでもらうためには、INDECの会員になってもらわなければならないのですが。

ともあれ、スケベ根性で見始めても、最後はホロっとくる映画です。その語り口の上手さはムカツクほどです。ブッシュ政権もコッポラ=コンドンの二人をイメージ改善のために雇うべきだと思います(?)。どうぞ淡々と楽しんでください。お薦めします。
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1 コメント

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なるほど (MM)
2005-09-26 00:52:58
私も上映会に参加させていただきました。上映してくださりありがとうござました。先生の解釈になるほどと思いました。映画のなかにアメリカ社会をみる自然な見方を私はまだできていないと痛感しました。
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