続・トコモカリス無法地帯

うんざりするほど長文です。

刑事モノ

2012-11-27 22:50:30 | 読書感想

先の連休には2冊の小説を読んで、4体のプラモデルを組み立てました。3日間の成果としては良いほうだと思うので満足していますが、本の内容には少々不満です。

1冊目。
「十角館の殺人」
たいへん有名な作品です。購入したのはかなり前なのですが、登場人物が互いに探偵のニックネームで呼び合うのがどうにも恥ずかしいというか痛々しいというか、冒頭で萎えて読み進めることができなかったのですが、今回はなんだか落ち着いて読めました。どんでん返しのインパクトで有名な作品ですが、私は事前情報を仕入れずに読んだのでオチを楽しむことが出来ました。古い作品のせいか割と正統派。ストロングスタイル。ラスト間近までにミスリード含めて情報はほぼ出揃い、私は見事に引っかかったので終盤で「なんだと?!」と驚愕。え、それはありえなくね?というトリックを「ありえる」ように見せかける段取り説明に入ってからは、ああ、あれはそうだったのかーと納得。同時にこんな細かく事件の仕組みを考えないとならない推理小説家という人種に気の毒な気分が湧いてきました。あとがきにもありましたが、常に読者の裏をかくことを期待されるうえ、先人のアイデアを使うとパクリと貶され、ミスリード満載や情報を不足させたままのオチだとこれも卑怯と非難されるのです。
昔のPSのギャルゲーで「Lの季節」というのがあって、学園内で起こる事件の犯人は異世界の魔王だったという酷いシナリオで、これギャルゲーだからいいけど、推理小説でやったら総スカンだなと呆れたものです。今はそういう反則手もアリとして支持層があるそうですが、普通は読者の信用失ったらもう本は買ってもらえません。作者が読み手の裏をかくことに意識が向きすぎて、予測を裏切ろうとして期待も同時に裏切っちゃって、誰も得しない展開ばかり続けて終いには見放される、という事例がいくつもあるので、物語を書く人は大変だとしみじみ思います。
この本は当たりの部類。わりと直球剛速球なトリックもの。最初に途方もない嘘をかましておいて最後にひっくり返す展開。よく読めばところどころにちゃんと正解のヒントもあります。これがデビュー作かよ。登場人物の掘り下げとかはそれなりですが、全編パズル的に組まれた技巧作品。よく出来たびっくり箱なのですが1回しか使えない使い捨てギミックなので2回読む必要はありません。どういう真相なのだろうという先への期待で引っ張るタイプなので、オチが分かって読む話ではありません。ページのほとんどはなんだか癖のある少々嫌な感じの登場人物達がいがみ合う描写に使われているので、文章自体が楽しいわけではありませんし。

この無難なタイトルがかえって良かったと思います。
以前に叙述トリックがすごい小説としてどこかで紹介されていた「ハサミ男」。正体不明の殺人鬼ハサミ男が獲物を横取りされて真相を追う、というあらすじ紹介なのですが「正体不明だったら男かどうかわからんだろ」とか思ってたらそれがオチで使われるトリックでがっかり。ハサミ男の正体は女。うん最初から読めてました。
こないだ映画になった「ドラゴンタトゥーの女」は宣伝文句が「誰がハリエットを殺したのか?」でしたが、そもそもハリエットは死んでない、という酷いネタバレをふたばのスレで見てがっかりしたこともありました。ミステリ・サスペンスの類は最初の嘘がでかいほど仕掛けを大きくできるけれど、その嘘が露骨なミスリード誘いや前提崩しだと失望度も比例して増えます。


もう1冊。
「血まみれの月」
キチガイ殺人鬼を天才刑事が追う話。異常事態を異常人材で解決するのってなんだか面白そうです。自分の想像を超えた常識外の対応が見れると期待するものです。
これは期待ハズレでした。

問題その1。文章が読みにくいです。海外小説は訳者の文章センスも大きく影響されますが、この本はあとがきで「作者は文章が下手です」と言われてました。多分それは訳者のいいわけではなく事実でしょう。短い文章を積み重ねるタイプですが表現やら語句の配置がイマイチです。文章そのものの並び配置を訳者が入れ替えしすぎては内容の意味が変わるので、おそらく元々がこういう味気ない文章。質より量の文章。描写が丁寧なわけでもなく心情が豊富なわけでもなく、それはもうわかったということを何度も書くような記述の薄味を文字数で補うようなスタイルで、個人的には苦手です。

問題その2。話の進みが遅いです。全4部構成ですが犯人と刑事が向き合うのが3章から。そこ以前の2部は異常殺人鬼と変人刑事の個々のエピソードで、話は交わりません。このパートが不要とまでは言わないけどプロローグで1/10に削っても十分だと思います。そして肝心の3章に入ってもなかなか主人公二人は向き合わない。確かに刑事と犯人が向き合ったら逮捕か射殺で話が即終了してしまうので仕方のないことですが、犯人側が極めて用意周到に動くため、刑事側がなかなか的を絞れず動きが取れません。

問題その3。登場人物がキモい。主人公刑事は天才的な刑事という設定なのですが、この人、閃き型なのです。いきなり脈絡なく犯人のイメージが湧いて唐突に動くから周囲の理解がなかなか得られません。閃き型主人公としては程度はかなりマシなほうで、一応捜査データと睨み合う場面も多いのですが、これって要は作者がこいつにしか情報与えないよという制限方式でして、逆に言えば主人公を天才にするために周囲を馬鹿に描くという、手法としてはかなり低級な部類に入ります。なのでキチガイ描写はしつこいけれど論理的な展開はぞんざいでどいつもこいつもボンクラに見えて感情移入を阻みます。狂人殺人鬼は超ナルシストストーカーでありがちなわかりやすいキチガイテンプレートをなぞっているため、だいたい行動は予想通りでそれ程キャラは立っていません。なので刑事側に力をいれたのか主人公刑事も変人です。悪い方向で。すぐに頭に血が上って叫ぶし、冷静に殺害現場を捜査したかと思ったら、別の場面ではキチガイルームで悲鳴を上げて逃げたり、家族関係も一方的な依存が見えるし、そのうえ女性にはだらしないという40歳の大人とは思えない程に落ち着きがありません。主人公キャラとしてはかなり残念な出来で、愛嬌のある悪漢という描き方でもありません。単に作者が狂気設定を持て余して異常な行動が散発しているだけに見えます。しかも先に書いたように事件解決の糸口を論理的に組み立てるのではなく、閃きという形で作者からの啓示を受ける巫女のように得るので、ちっとも頭脳明晰に見えません。コイツ自分で頭使ってないじゃん。頃合がきたから作者がぶっちゃけてるだけじゃん。作者はかっこいい主人公と考えているのかもしれないけど、描写力量が足りていません。
で、これだけ悪口書いてるけど感じたキモさのまだ半分くらいです。キモさの本体はホモ臭いこと。変態殺人鬼も狂人刑事もどちらもホモレイプされて狂っちゃった人です。悪いのは全部ホモ。若い頃にホモに襲われて精神が不安定になっちゃった二人がだんだんお互いを意識し始め、互いのテリトリーを侵しつつ、最後には殺し合う話です。実際の作者の性癖がどうなのか知りませんが、ホモセクシャルが胸糞悪く書かれていて、元々ホモネタが嫌いで苦手な私はますます話に乗れず、殺人鬼はもちろん刑事にも感情移入が出来ず、結局キモいからさっさと殺し合って終わってくださいとうんざりしながら終盤を読み進めました。登場人物の誰にも共感できませんでした。誰も好きになれませんでした。チンピラ汚職警官が自殺する場面だけは「こんな舞台からはさっさと退場したいよなあ」と理解できました。このチンピラ汚職警官が学生時代に犯人をホモレイプしたせいで、そいつが変態殺人鬼にクラスチェンジしちまったから、元はといえばコイツが事件の元凶なのですが、こいつ自身がその後の人生を嫌々生きてきたらしき事情が書かれていたので、あっさり死んだけどそれはそれでいいや。

刑事モノを書くのが難しいのはわかります。犯人のエピソードを派手に書くほど刑事は後手に廻り、なかなか良い活躍ができません。構造上仕方ありません。それでも新宿鮫の1作目、ダーティハリーの1作目は、犯罪者のヤバさとキレた刑事の激突がいい感じに書かれてたと思います。