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因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

らまのだ6かいめ公演『優しい顔ぶれ』

2020-03-08 | 舞台

*南出謙吾作 森田あや演出 公式サイトはこちら 下北沢/OFFOFF劇場 11日まで(らまのだ関連blog記事はこちらをスクロール)
 新作書下ろしを含め、南出謙吾の戯曲3作品が同時上演される。劇作家の故郷である石川県の金沢21世紀美術館での公演は延期となったが、それに先立つ東京公演は、入場の際の消毒液噴霧、マスク着用のお願い、客席にゆとりを作るなど周到に配慮して実施された。
【麻酔みたいな】・・・ある男女(塩原俊之/アガリスクエンターテイメント、松本みゆき/マチルダアパルトマン)の現在と過去が行き来する。衣装替えで時制の変化を示すところなど、劇作家と演出家の名コンビぶりがよくわかる。煮え切らないぐずぐずの関係がすっきりとした解決に導かれることはたぶんない。そこに悲しさと、もしかすると救いがあるのかもしれない。良質な会話劇であり、本作を観劇すること、実際に読んでみることは、コミュニケーションについての学び、実践の機会になると思う。
【あたらしいニュース】・・・憲法改正の国民投票を間近に迫るなか、零細ネットメディア制作会社が書いた記事に、自衛隊からクレームがついた。会社をつぶしたくない上司の前田(竹井亮介)と、心身疲弊しながらも自尊心を保とうとするライターの高見(宮原奨五/大人の麦茶)、クレームをつけてきた自衛官募集相談員の河本(板倉哲/青年劇場)、代理店の営業吉本(吐山ゆん)による、互いの思惑とプライドをかけて展開する会話劇だ。適材適所の配役が楽しく、3本の中でもっとも見応えがあった。たとえば永井愛なら詩森ろばなら、この題材と設定をもっとシビアな作品になっただろう。しかし憲法改正という硬質な社会問題が、実際の市民生活にどう影響するのかが気負うことなく描かれており、南出謙吾が新境地を開きつつあることが感じられる。吉本のパワハラ上司青木(井上幸太郎)登場の終幕は、らまのだ常連の井上の登場だけに(スーツを着た井上氏を見たのは初めてだ)、もっと活かす可能性もあると思われたが。
【優しい顔ぶれ】・・・男(緒方晋)はブティックを経営している。入院中の妻(松本みゆき)への見舞いを欠かさず、病院の外の様子などあれこれをおもしろく話してやる優しい夫だが、店で働いている女(田崎小春)とそういう関係にある。中央から奥まったところに病室のベッドが置かれ、上手手前に女の部屋のテーブルなどがあり、男は両方を行き来する。昼と夜。表と裏の顔。映像ならば、男はリリー・フランキーのイメージか。横山拓也作品でおなじみの緒方晋がどっちつかずの男を手の内に入ったように自然に演じている。田崎小春演じる女は、頭の回転が速く、気働きもでき、非常に有能な印象だ。しかし雇い主とそういう関係になってしまったこと、その妻の病気がかなり重そうではあるものの、回復する見込みがないわけではなく、妻の生死が自分の将来を左右する状況にあって、いささか「嫌な女」になりかけており、「こういう性格の女」と一括りにできず、もう少しこの人の気持ちを知りたいと思ったのだが、物語はうやむやなまま終わる。これを優しさと捉えるか、物足りないとするか。

 休憩無しで3本が続けて上演され、上演時間はおよそ2時間15分であったか。最後の1本で少し集中が切れてしまったが、落ち着かない世相にあって、心が落ち着き、満たされるひと時であった。らまのだは新しい一歩を着実に踏み出している。

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