因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

シアター風姿花伝「プロミシングカンパニー」パラドックス定数オーソドックス 第39項『731』

2018-04-24 | 舞台

*野木萌葱作・演出 公式サイトはこちら シアター風姿花伝 5月2日まで1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22,23,24
 「プロミシングカンパニー」とは、シアター風姿花伝が「これ!」と見込んだ若手劇団を選出し、1年間その活動を強力にバックアップする試みだ。パラドックス定数は今夜初日の『731』を皮切りに、来年3月(訂正しました)まで7本の舞台を上演する。パラ定ファンには嬉しくも心騒ぐ1年が始まった。
 ある演劇情報サイトにおいて作・演出の野木は、「最初の演目だからといって、助走などしておりません。いきなり最大火力で狙い撃ちいたします」と意気込みを述べている。パラ定公演観劇の秘かな楽しみのひとつは、おそらく公演の全日程、劇場にスタンバイして観客を迎える野木の立ち姿を見ること、開演前の諸注意、そして終幕の挨拶を聞くことなのだ。地味な紺のパンツスーツ、しっとりと美しい声、気の利いたユーモアを交えて観劇前の観客の心を和ませ、舞台に臨む姿勢を優しく整えてくれる。緊張感漲る舞台が終わったあとは、アンケート協力の呼びかけ、物販の案内など細々したことを、溢れるような感謝と共に見事に締めくくり、客席からは必ず拍手がわく。ここまで体験しなければ、パラ定を見たことにはならない。

 今回の『731』は2003年に同じシアター風姿花伝で上演されたもの(未見)を大幅改訂したものとのこと。旧満州において人体実験を伴う細菌兵器の開発と実戦使用に関わった731部隊に、医師、研究者、衛生兵として任務を遂行した男たちが登場する。題名を見た瞬間、少しでも「731」のことを知る人は背筋に冷たいものが走り、身構えることだろう。

 戦争中の行為そのものが再現されるのではない。1948年の東京のある場所に、何者かによって書かれた手紙によって7人の男たちが集まってくる。自分たちが帝銀事件との関わりを疑われていること、忌まわしい過去の記憶、悪魔的な行為を行った自分への嫌悪、消すことのできない過去、研究者としてのプライドや開き直り、エゴなどがぶつかりあい、やがて闇に消えてゆく2時間のドラマである。

 冒頭から、登場人物の台詞の一部に、非常に聞き取りにくい箇所があることが気になった。演出の意図あってのことだろうか。またこれは致し方ないことかもしれないが、出演俳優から「元軍人」の雰囲気を感じ取れなかった。しかし仮に新劇系の俳優を起用したり、大作映画並みに髪型や服装などをきっちりと作り込んだとしたら、作り手が示そうとしていることにずれが生じるように思えるのである。野木が他劇団に書き下ろした作品の上演を見たとき、ことばにし難い違和感があったことを思い起こす。やはりこの俳優陣で見たいのである。

 まことに大雑把な表現になるが、戦争を題材にした作品の特徴として、戦争というものがいかに人間の心を狂わせるか、傷つけられた者はもちろん傷つけた者もまた、苦悩に苛まれ、それでも生きていくしかないこと、そして戦争の愚かさとともに平和こそが尊いのであり、人の命の大切さを説く…といった流れが想像されるし、観客もまた知らず知らずこういったものを求めてしまうのである。

 『731』は安易な予想や単純な既成概念いずれをもきっぱりと拒否するものである。当日リーフレット掲載の野木の挨拶文に、2003年の初演を最前列で観劇していた大杉漣のエピソードが紹介されている。「本当に…ものすごく面白かったんです。不親切で突き放してて…ね?」と感想を伝えたという。この率直で生き生きとした言葉は、『731』のみならず、パラドックス定数の作品群の特徴と魅力をずばり言い当てていると思う。

 自分自身のことを言うと、観劇のあいだ、しばしば緩い眠気に襲われ、集中を持続することができなかった。寝不足や疲労はいつものことであるし、内容にも強く惹きつけられていたのだが、本作の会話の独特のリズムや、人物の心象、社会背景など相当に複雑な内容を孕むやりとりに、心身がついていかなかったためと思われる。もう一度観劇するゆとりはなく、上演台本を読み返しては、記憶に残っている舞台の印象について考えるしかなさそうだ。しっかりした手ごたえを得てこの文章を書けないのは残念であるが、自分の『731』はここから始まることを心に覚えておきたい。

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