因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

『チェンジング・ルーム』

2006-05-16 | 舞台
*文学座+青年団自主企画交流シリーズ第一弾 デイヴィッド・ストーリー作 坂口玲子訳 桜井秀峰演出 こまばアゴラ劇場
 平田オリザ作品の文学座アトリエ上演はじめ、桜美林大学における両劇団からの教員派遣など、さまざまな活動を行ってきた文学座と青年団が、若手育成を目的として交流企画をスタートさせた。その第一弾である。

 イギリスのある炭坑の街で、ラグビーの試合当日の更衣室が舞台となる。まだ誰もいない更衣室を雑用係のハリーが黙々と掃除をする。三々五々集まってくる選手たち。季節は冬らしい。無駄口、軽口を交わしながらユニフォームに着替え、ウォーミングアップを始め、あっという間にグラウンドへなだれこんでいく。ハーフタイムで引き上げてくる彼らは見事に泥まみれ、途中怪我で担ぎ込まれる選手もいて、文字通り実に泥臭く、汗の匂いまでしてくるような舞台であった。

 人生の、というより生活の中のある時間をそのまま板にのせたようなお芝居がある。たとえば先月の文学座アトリエ公演の『エスペラント』(青木豪作 坂口芳貞演出)である。特に大事件が起こるわけでもないが、いつのまにか過去の時間やその人物の背景、日常に潜む恐さや人生の奥深さをしみじみと感じさせてくれる。この『チェンジング・ルーム』も生活の時間をそのまま描いたものなのだが、あまりしみじみできない。選手たちがとにかく騒々しく、誰が何を言っているのかほとんど聞き取れないときもあって、あっけにとられているうちに終わってしまう。いったい何だったのだろう?
 
 目の怪我で解雇通告をされるらしい選手や、オーナーとわけありのような選手もいるし、人物たちがほとんど聞こえないくらいの小声で何か話していたり、意味ありげな目配せをするところなどもあるので「もしかすると」と期待させるが、最後まで決定的な場面は用意されず、試合のあとのシャワーの大騒ぎを終えて選手たちは家路につき、またハリーがひとり、更衣室の掃除をするところで終わる。選手たちが盛り上がれば盛り上がるほどこちらは引いてしまい、舞台のテンションにはとうとうついていけなかったし、そっけない終幕にいささか拍子抜けの気分で劇場をあとにしたのだが、少し時間がたつと、事件が起こりそうで起こらないことや、ただ流されていいくような日常の虚しさがじわじわと感じられてきた。

 驚いたのはコーチ役の横山祥二(文学座)だ。目つきの鋭いやり手のコーチである。選手たちには睨みをきかせ、オーナーにも如才なく振る舞う。横山は前述の『エスペラント』にも出演しており、旅行社の添乗員を演じていた。これがろくに仕事もせずふらふらと出たり入ったり、あげく女湯をのぞこうとして浴場の「乙女の像」を壊してしまったりする実に情けない人物だったのだ。それが今回はまるで別人である。怪我人の手当をする場面では、手慣れた動作ながらも選手を気遣う優しさがほのかに感じられたし、口さがない選手に女好きをからかわれて反論する場面では小心者の一面もみせていて、なかなかに複雑な人物を造形していた。芸域の広さというより、最近よく目にする「振り幅」という言葉のほうがぴったりであろうか。いまだに「ほんとうに同じ横山さんだったのかな」と思うくらいである。

 ひとまず今回のプロジェクトは、一人の俳優が別の場でまったく違う顔をみせてくれることが楽しみになりそうである。横山祥二さんは月末の『忠臣蔵』にも出演。いったいどの役をどう演じてくださるのだろうか。まったく予想ができず、ぞくぞくするほど楽しみである。

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