因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

荒川チョモランマ 晩夏の番外公演『◎の魔法』

2011-09-24 | 舞台

*長田莉奈脚本・演出 公式サイトはこちら 恵比寿siteギャラリー 25日で終了
 題名は「にじゅうまるのまほう」と読む。これが劇団初見。舞台中央に向こうむきにベンチが置かれ、誰かが寝ている。上手と下手には緋色の幕が下がり、その下にパソコンなど音響や照明等の機材があって、スタッフは客席にみえるまま操作をする。

 早朝の駅のホーム。いとこの披露宴でしたたかに酔った姉を妹が介抱しているが、姉は衝動的にホームへ飛び降りる。そこからはじまる彼女の過去といまとこれからが描かれる90分だ。

 小学生の夏の思い出。母は小さな妹の世話にかかりきりで、家族揃って出かけられないから父とふたりで海にいく。自分は嫌々、父は嬉しそうだ。優しいが頼りなげな父。両親のあいだの不協和音を敏感に感じとる姉むすめ。
 学校の友だちとのあれこれ。冴えない子を無意識に苛めてしまったり、得意な折り紙で意気投合したり、やがて就職、同世代のいとこは早々と良縁をつかみ、自分の彼氏はバンドに夢中のフリーター。

 すでに遠い記憶であるが(苦笑)、学校を卒業してから二十代なかば過ぎまで、恋愛と結婚は女子にとって非常に悩ましい問題であった。つぎは誰が結婚するのか、やれ先を越された、やれ最後に残るのは誰か云々。まるで出来の悪いドラマのようなじたばたであった。

 姉の子ども時代を小柄な女優さんが演じるのはわかるが、後半から突如男性俳優が演じることになり、男のからだになった本人も仰天、困惑していたが、こちらも困った。しかもその意図や意味は最後までわからず、落としどころがない。またホームから飛び降りた姉は助かって(始発電車が来ない時間帯だったのだ)病院に運ばれるが、同室の女性が声が出なくなったミュージカル女優という設定で、回復した彼女が『アニー』の有名ナンバー『トゥモロー』を熱唱、促されて姉(男性が演じている)が彼氏と尾崎豊を熱烈に歌う等々、展開や描写も混乱、迷走ぎみだ。
 しかし姉を演じる男優さんが妻夫木聡似で大変可愛らしかったり、ミュージカルナンバーの歌い方が微妙なへたうまでおもしろかったり、何役も演じるバニーガールが最終的にお母さんだったり、客席と近いために引き気味に見ながらも、結構本気で笑えたりもする。

 いまの自分を持て余す女の子が過去の自分に再会し、そのときは知らなかった、わからなかった周囲の人々の思いを受けとめて、これからの人生を生きる勇気を与えられるという展開は特に珍しいものではない。西原理恵子原作の映画『女の子ものがたり』が思い出されるし、演劇なら、たとえばKAKUTAの桑原裕子であったら、恵比寿siteの空間を活かし、同じ題材をもっと洗練された技法で描くことができるだろう。

 今回はまず、若い劇団の「いま」、元気な演劇女子たちとの出会いを素直に感じとりたい。
 前述の「結構本気で笑えた」場面の数々は偶発的なものではなく、こちらからはうかがい知れない周到でしたたかな劇作から生まれ出たものかもしれず、これから大化けする可能性を秘めていると思われるのである。

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