因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

小西耕一ひとり芝居第五回公演『アルビノハニー』

2014-08-01 | 舞台

*小西耕一作・演出 公式サイトはこちら 南阿佐ヶ谷・ひつじ座 8月4日まで(1,,2,3

 まことに迂闊だったのは、今回の公演チラシを早い段階で入手していたにも関わらず、じっくりと読まなかったことだ。小西耕一ひとり芝居はいつも当日リーフレットの挨拶文に作者が自身の恋愛歴を中心に、過去の悔恨やあれこれがびっしりと綴られており、それを読むつもりで、いわゆる観劇前の予習を怠っていたのだ。「怠っていた」とたしかに実感したのは、本作に重要な役割で登場するある女性に終始違和感が強く感じられ、彼女の恋人や周辺の女性たちに対するふるまいに対して、引く面が多々生じたためである。
 「アルビノ」とは先天性白皮症といい、先天的なメラニンの欠乏によって皮膚が白く、瞳孔が赤い症状が出ることだ。視力が弱く、紫外線にも極めて弱い。

 公演チラシにはこのアルビノである女性のことが、やや詩的で謎めいた文体で綴られており、彼女が最新作において重要な位置を占めることはまちがいない。迂闊としか言いようがないのだが、自分はここをしっかりと読んでいなかった。いや多少は読んだが、ここをきちんと意識して観劇に臨む姿勢が皆無であったのだ。だから芝居の冒頭、白髪に近い金髪に大きなサングラスをした女子高校生が登場しているのをみて、合点がいかなかったのである。

 反省したところで、小西が今回どうしてアルビノの女性を登場させたのかという点に疑問が残る。この病は外見に特異な症状が現れることもあって、周囲から奇異な目で見られることも多く、当人も家族も苦悩が深いと想像される。しかしアルビノという病と、劇中の彼女が恋人に対して独占欲が強く嫉妬深いことは別ではないか。彼女は恋人のスマホから女性の連絡先だけでなく、LINEのやりとりまで削除することを要求する。メールの履歴から他の女性のところに乗りこみ、最後は凶行におよぶ。これは身体的な病理がない女性でもありうることだ。

 小西演じる男性は公演を重ねるごとに「最低度」がいよいよ強まっていくのだが、今回は単に複数の女性とだらしなくつきあい続けたあげく、収拾がつかなくなった男の域にとどまった印象である。
 なぜ彼はこうも女性に対してむらっ気があり、あちこちと手を出してしまうのか。なぜ女性たちは、つぎつぎに彼になびいて執着するのか。

 そのなかで彼女の母親は唯一、手つかずの存在である。演じる松葉祥子は、女子高校生の母親を演じるには年齢的に若く、若干無理がある。しかし髪型や服装の垢抜けないところや、「昔お父さんとホテルに行ったとき」などと懐かしそうに娘に話したりなど、あけすけのようで奥ゆかしく可愛らしいところもあり、娘のことは病気を含め心から案じ、幸福を願っている。複雑で微妙な母親としての気持ちを持てあましながらも、娘の恋人や友だちをゆったりと包み込む雰囲気がある。演劇部員である娘の台詞の稽古につきあう場面など、とてもほほえましく、非常におもしろい人物である。男をめぐって切った張ったをしないかわりに、物語の隠れたキーパーソンになり得るのではないか。

 アルビノの彼女の凶行に対して、彼が放ったあのひとことで幕を閉じることにはいささか納得できないものがあった。元はと言えば彼の女癖が招いたことなのに、言うことはそれだけか。
 しかしやがて思い直すに、病をもった恋人に対して最後に言うことばがあのひとことであることがそもそも彼の人間性であるとも考えられ、またいっぽうでいわゆる病理的なアルビノについては、彼はそれほどこだわりなく彼女を愛しており、しかし嫉妬深さ、執着の強さについての配慮や対応ができず、あのひとことで括ろうとしているとも思われる。

 いずれにしても女性5人を登場させたことによって、小西耕一の演じる男性の存在が小西自身から距離をもち、希薄になってしまったのではないだろうか。
 小西耕一ひとり芝居は、文字通り小西がひとりで演じる公演もあったが、共演者がひとりふたりと増えていき、今回は女優5人との共演である。それでも「ひと り芝居」の公演名は変更されない。自分は観劇を重ねるにつれ、小西耕一という俳優が、自分の過去や心のうちにこだわり続け、「自分ひとりのこと」をひたすら舞台で描くことこそ が、まさに小西耕一独自の「ひとり芝居」であると認識するに至った。そして小西自身、舞台で演じられている人物、この両者のどちらがどちらとも思えないところにみるものを引きずり込むような「ひとり芝居」に、ぜひ出会いたいと思いを募らせているのである。

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