因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

オフィスコットーネプロデュース『夜、ナク、鳥』

2018-02-22 | 舞台

*大竹野正典作 瀬戸山美咲演出 公式サイトはこちら 吉祥寺シアター 24日で終了
 2002年に九州・福岡で発覚した看護師4人によ連続保険金殺人事件(参考)をモチーフにした1幕劇だ。4人の女性たちが医療技術と知識を駆使し、夫や愛人を殺し、保険金をせしめていく。いや、せしめるのはリーダーのヨシダだけであり、あとの3人は友情を盾にしたヨシダの巧言によって悪の道に足を踏み入れていくのである。2016年、『埒もなく汚れなく』において大竹野の半生を劇化、演出した瀬戸山美咲が、大竹野の作品のなかでもっとも好きだという本作の演出に挑んだ。
 この事件は2015年にテレビドラマ化もされたが、新聞に掲載された紹介記事を読んで恐れをなし、視聴していない。

 劇場の前方の座席数列のスペースに張り出し舞台風の四角い演技スペースを作り、その両サイドにも座席が設置されている。舞台が客席に近いところにあり、俳優は観客用の出入り口から出捌けするため、舞台の空気がより近く、濃密に感じられる(乗峯雅寛舞台美術)。一方でソファやテーブルなど最小限の家具の置かれた部屋を、場面ごとに看護師たちそれぞれの住まいや、病院の休憩室などに見立てる趣向は極めて無機的だ。事件の舞台を大阪に置き換え、人々は強烈な大阪ことばをテンポよく交わし合い、どこか漫才めいて抜けたところもあり、しかし行われているのは陰惨極まりない殺人である。もしこれが実際の事件の通りに九州ことばで行われていたら、また生活実感を忠実に作り込んだ舞台美術であったなら、作品の印象はどう変わったであろうか。

 事件の概要からすぐに連想したのは桐野夏生の小説『OUT』である。しかしこの事件の特殊性は、暴力を振るったり貧困を強いられたりなど、やむにやまれぬ事情のために夫を殺めたのではなく、主犯のヨシダが仲間を言葉巧みに騙し、脅し、親切ごかしに利用した点にある。あとの3人は加害者である前に、ヨシダの被害者なのである。となると尼崎市の連続監禁事件も連想させるが、いくつかのサイトを読むと、実際のヨシダは仲間に性的関係を強要していたとの記述もあって(この点は劇に反映されていない)、言葉を失う。

 ヨシダ役の松永玲子がこれ以上ないほど、心憎いまでに怪演している。親切ごかしで力になると見せかけて、自分が仕組んだ罠に相手を陥れていく。泣き落としから恫喝に豹変する造形の巧みなこと。松永が2006年、本谷有希子作・演出の『遭難、』で演じた教師役にも通ずるものがあるのではないか。ヨシダが「イシイ!」と呼び掛ける声の迫力といったら…。もうこの女には逆らえない。

 松永を筆頭に、高橋由美子、松本紀保、安藤玉恵いずれもこれまでのキャリアやイメージをぶち壊さんばかりの熱演を見せ、劇場内の緊張度も高く、非常に強烈な観劇体験となった。

 瀬戸山美咲の演出は切れ味良いだけでなく、登場人物一人ひとりを受けとめ、包み込む優しさを感じさせる。このような話であるのに終演後の心持ちが次第に軽やかになっていくのはそのためだと思う。

 しかしながらいろいろと疑問も生じる。まずヨシダの二人の子どもの影がまったく感じられないことだ(高橋由美子演じるイシイは3人の子持ちとの設定で、子どもはまったく登場しないが、その実感はちゃんと伝わる。とくに終盤の子どもとの会話を独りごちる場面は非常に美しい)。彼女らの夫たちは確かに情けない男ばかりだが、「この男に死んでもらわないと、私が殺される」と思い詰めるほどには思えないのである。それだけ金目当ての殺人であるということなのか。これまでさんざん苦しめた、泣かされたという台詞は繰り返し出てくるが、具体的なことはほとんど語られない。親身になったというヨシダの言動にも具体性がなく、説得力を欠く。

 終演後、本作所収の大竹野の戯曲集を買い求め、帰りの電車で一気読みしたのだが、今回の上演では終幕の場面が変更されている。2003年の初演ではラフレシア円形劇場祭参加作品として、南港ふれあい港館代子駐車場、つまり野外劇として上演されたとのこと。野外でこのラストシーンを想像するだけでぞくぞくするのだが、『夜、ナク、鳥』という題名や、看護師の始祖である、かのナイチンゲールと、「サヨナキトリ」とも呼ばれる同じ名の鳥、その手を罪で黒く染めた女性たちを象徴する重要なシーンである。演出の意図、何らかの事情であろうか。今回の瀬戸山美咲の演出で、4人の女優で、あの場面をぜひ見たかったと思うのである。

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