因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

ビニヰルテアタア第11回公演『言問う処女』

2018-11-14 | 舞台

*千絵ノムラ作・演出 公式サイトはこちら1,1',2,2'SOOO dramatic! 18日終了

 入谷のイベントスペース・SOOO dramatic!(ソードラマチック!)は、ジャンルを問わず、さまざまなイベントやワークショップはもちろん、子どもたちの遊び場や帰宅途中の働き人が立ち寄るサロンの役割も持つ「現代の公民館」がキャッチフレーズだ。

 パラレルワールドをテーマにした千絵ノムラ3年ぶりの新作とのこと。客席が演技スペースをL字型に囲むかたちをとる。俳優は、上手奥、客席真ん中あたりにのもうひとつ、そして観客の出入り口も使って出入りする。舞台中央に大きなドアが吊り下げられている。やがてはドライアイスの煙のようなものが漂いはじめ、不可思議な世界の幕明けである。

「あたしはいつだって、パラレルワールドと隣り合わせに生きてきました/幾千幾万もの平行する世界 その世界ではこの世界で叶わなかったことも叶ってる だからこの世界ではあたしとして全うして生きていこう そう思うのです」チラシに掲載の千絵ノムラの挨拶文でもあり、今回の作品についての概要説明でもある。性別も職業も異なる5人のゲスト出演者があり、物語後半の先生役を演じる。3人は1回、2人は2回出演し、自分は「演説家」の鳥肌実の回であったが、他の出演者(社会学者の宮台真司、女優の野口かおる、ビニヰテアターのメンバーである目黒杏理、チラシには「引きこもり」円ちゃみとある)の回がどのようなものであるのか、まったく想像がつかない。

 ゲスト出演者が登場する学校の場面は、途中からアドリブが入ったり、俳優を素に戻して少しいじったり等々ののち、終盤は「ここからは台本にない」とのことで、観客3人が俳優に指名されて会場を出てゆき、最後の場面は外で彼の説明を聞くという展開であった。

 この趣向を受けとめて、生き生きしたアクションを返す観客がある一方で、受けとめかねて困惑している面もあり、自分は残念ながら後者であった。アコーディオンカーテン1枚向こうでは、観客先導役の俳優が何か語っており、漏れ聞こえる口調も、3人のお客さんがどんな様子なのかを想像するのも楽しいと言えば楽しく、ちょっと申しわけないようでもあり、これも作劇のひとつとして「アリ」なのかもしれない。

 なぜこの方法を採ったのか…といったことを考えてしまうのは野暮なのだろうか。劇作家や演出家はじめ、舞台の作り手の創作過程には非常に興味がある。何を考え、どこで迷い、どうやって最後の場面の情景にたどりついたのかは、主人公が心の奥底で、ほんとうは何を考えているかを知ることと同じくらい、観客の興味を掻き立てるものである。俳優はどの人も個性が際立ち、とても魅力的であった。ただそこで「中の人」が顔を出すことについては、ぎりぎりまで慎重に、かつ周到であるべきであろう。それが作・演出の人であればなおさらだと思うのである。

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