因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

横濱リーディングコレクション#2宮沢賢治を読む!『飢餓陣営』

2007-02-22 | 舞台
*宮沢賢治作 椎名泉水(studio salt)構成・演出 相鉄本多劇場 公式サイトはこちら 公演は25日まで
 待ちに待ったシリーズの今夜が初日。この記事にはネタばれがありますのでこれからご覧になる方はご注意くださいますよう。『飢餓陣営』という題名に「リアルな戦争ものでは?」と危惧しながら原作を読むと、バナナン大将率いる軍隊の兵隊たちが空腹のあまり、大将が軍服につけている勲章を次々に食べてしまった挙げ句、最後は全員で体操をするというお芝居で、テンポよく話は進んでいくのだが、こ、これはいったいどういう話?というのが正直な印象である。舞台のイメージがまったく思い浮かばす、わくわくというよりこわごわと客席についた。

 裸舞台に木箱のような椅子が5脚。上手にパーカッション奏者(栗木健)が座る。下手の階段に麻生0児が腰掛ける。あとに5人の俳優が続き、椅子に座る。「バナナン大将はまだ来ない」という兵隊たちのささやき声がさざ波のように広がり、次第に大きくなっていく。劇世界がまさに始まろうとしている瞬間だ。思わず身を乗り出す。と最後に登場したのがそのバナナン大将(松本・F・光生)。顔にはおしろいをつけ、眉毛は太く頬は赤く、一目でおばかさん風である。大将の台詞を下手から麻生0児が激しく発し、松本は一言もしゃべらないで、ゆさゆさとからだを動かす。ク・ナウカの「speakerとmover」ならぬ、肉体と声を分離させる手法である。

 バナナン大将がつけている勲章(お菓子やバナナ)を、兵隊たちがほんとうにどんどん食べていく場面は実におもしろかった。これまでにも俳優が舞台で実際にものを食べたり飲んだりする作品をみたことがあり、その効用については疑問を感じることが多かったのだが、今回の舞台にはほとんど「戯曲にそう書いてあるのだ」という、いわば否応無しのおもしろさがある。千秋楽まで俳優さんの胃腸が心配だが。

 嬉しかったのは客席に子どもの観客の姿があったことだ。終演後のポストパフォーマンストークで、ゲストの演出家西沢栄治(JAM SESSION)が、「どうだった?」と問いかけていて、もっと子どもたちの声を聞きたいと思った。

 開幕までまったく想像もつかなかった戯曲が、生き生きと動きだし、こちらに近づいてくる楽しさを味わえた。帰りの電車で読み返す原作の、何とおもしろいことか。

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1 コメント

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このリーディングのこと、教えてくれてありがとう。 (C・M・スペンサー@えびす組)
2007-02-23 12:24:05
このリーディングのこと、教えてくれてありがとう。
まだ『飢餓陣営』しか観ていませんが、満足して劇場を後にしたっていう爽快感がありました。
演出の椎名作品から、しばらく目が離せません。
記事をトラックバックさせていただきました。
また誘ってください。

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