因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

ミナモザ公演『Ten Commandments』

2018-03-23 | 舞台

*瀬戸山美咲作・演出 公式サイトはこちら こまばアゴラ劇場で31日まで 4月5,6日広島のJMSアステールプラザ多目的スタジオで上演 (1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22 ,2324,25,26,27,28
 公演チラシには、
2011年の原発事故のあと、原子力の道に進んだ大学院生たちが学ぶ授業を題材に、「私たちと原子力の距離を考えます」とある。先日サブテレニアンでの一人芝居の『ホットパーティクル』を観劇して、2011年当時の初演の記憶が生々しく蘇ったばかりである。311以来、瀬戸山美咲の作品は社会に訴える、世界と戦うという方向性が強まった。その311のあとに、敢えて原子力を学ぼうとする若者たちが登場するとあってはさぞかし喧々諤々の議論劇が展開するのでは…と予想していたが、実際の舞台は様相の大きく異なるものであった。

 上演中の舞台ゆえ、あまり詳細には書けないが、まず今回の舞台は非常に静かで、ことば少なである。開演前のアナウンスを出演者のひとりである山森大輔(文学座)が行う際に読み上げるのはユダヤ系物理学者レオ・シラードの十戒、すなわち本作のタイトルの『Ten Commandments』。専門的な知識と技術を要する仕事に携わる人がみずからを戒める言葉でありながら、詩的でユーモラスな味わいもある不思議な文言だ。

 311以来、「しゃべりたくなくなった」女性劇作家とその夫、夫の友人たち。そして女性の心のなかの声、意識のようなもの(女優二人が演じる)が登場する70分の短い物語である。劇作家は瀬戸山自身を投影しているようにも見え、小さいころから劇作家になりたかったことや今日までの日々を手紙に記す場面や、決して妻を責めず、すべてを受けとめる優しい夫とのやりとりなど、モノローグと不十分な、それゆえにいっそう痛々しいダイアローグは、原子力そのものを劇のモチーフにするものではない。サブテレニアンの『ホットパーティクル』のアフタートークでは、前日のトークゲストだった瀬戸山のコメントが紹介され、「『ホットパーティクル』以後は自分のことは書かないつもりだったが、また戻った」(ことばは記憶によるものです)とのことで、そういうことかとようやく納得した次第である。

 サブタイトルの「私と原子力、その近さと遠さについて」ずばりの内容ではなく、制作途中で作品の方向性や色合いを変わったのだと想像する。予想とちがうものに出会えた喜びよりも残念ながら戸惑いが強く残る。瀬戸山のなかでも70分はかなり短い方であるが、それでも途中何度も集中が途切れた。もう一度見たら、おそらく劇作家の心にもう少し触れられるのではないか。あるいはこれから書かれる作品に何らかの形で反映される可能性もあり、今夜の戸惑いは戸惑いとして大事にしまっておきたい。

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