因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

東京学生演劇祭2019 Bブロック(踊れないのに、・KRUMPETS・快晴プロジェクト)

2019-09-08 | 舞台

*公式サイトはこちら 花まる学習会王子小劇場 9日まで これまでの観劇記事→AブロックCブロック
 ◆踊れないのに、(多摩美術大学/尚美学園大学)
  柿澤大翔作・演出・出演『ふふ』…「踊れないのに、」。つぶやきのような名のユニットは、当演劇祭が旗揚げとなった。メンバーは作・演出・出演の柿澤(尚美学園大学)、映像の佐々木柊弥(多摩美術大学)、制作の吉枝里穂(尚美学園大学)
の3人である。大きな特徴は、演劇祭9演目のうち、唯一のひとり芝居であることだ。舞台には白い風船が敷き詰められ、そこに白い衣裳を纏い、目隠しをした人物(柿澤)が登場する。衣裳の背中部分に穴があり、そこから片手を出している。劇中ずっとこの態勢のままでの演技は、まず見るからに肉体的な負荷が強いものと想像する。
 肉体を駆使したパフォーマンスに留まらず、舞台で発する言葉についても強い意志が伝わるステージであった。決してわかりやすくはないが、その意気で行け!と

 ◆KRUMPETS(桜美林大学)
  小西善仁作・演出『しっかり楽しむ人々について』…上演前、作・演出の小西が登場し、前説をはじめる。観客への挨拶から子どもの頃の家族旅行の思い出話になり、前説にしてはささか長い。話を終えると小西は客席通路を通って、後部の座席についた。
 ディズニーランドへやってきた男女数人、皆が打ち沈んでいるのは、いっしょに行くはずだった仲間の一人が亡くなったためだ。彼らの複雑な心持に関わりなく、園内のイベントやショーは続いてゆく。終盤で客席にいた小西が立ち上がる。前説を劇本編につなげるという試みだが、演劇的効果を上げていたかはむずかしいところだろう

 ◆快晴プロジェクト(明治大学/東京大学)
  坂本樹脚本 長谷川浩輝演出『ビューティフル』…9演目中、もっとも整った構成と生まじめなほど硬質な演技が好ましい舞台である。

 解体が決まったある雑居ビルに、ビルの大家で売れない画家が荷物を運び出すためにやってきた。ビルの2階に入居していた学習塾経営者や画家の妹、美大時代からの恋人も手伝いに訪れる。積まれた箱のひとつは、戦地から届いた曾祖父の手紙、そして戦後ずっと曾祖母が書き続け、出せないまま古びてしまった手紙である。画家は曾祖母から、手紙はすべて焼くように申し渡されていた。舞台の時はもうひとつ、太平洋戦争末期、画家の曾祖母と戦地に赴いたその夫が、互いに手紙を読み合う場面である。この世で会えなかった曾祖父と曾孫が、80年の年月を経て絵と手紙でつながれる40分の物語だ。

 曾祖父が戦死したという坂本が3年前から構想を温め、仲間との出会いを得て、主宰で演出の長谷川浩輝と創作に取り組み、今回の上演を実現したこと、奇をてらうことなく、正攻法の舞台に結実させた。ビルから荷物を持ち出す終盤で、床に設置した角材を撤去する作業を自然に見せるのも、舞台転換に十分な時間の取れない制約への対処、次のブロックの上演団体への配慮として巧い方法だ。

 同じ空間で過去と現在が交錯することや、肉親の過去に触れて、自分の生き方を見つめなおし、希望をもって歩みはじめるという流れは珍しくない。映画やテレビドラマでもありがちな構成ではある。また誰も書いたことのない戯曲、見せたことのない舞台を目指す心意気はもちろん素晴らしい。しかし、たとえ既視感のある作りであろうと、「これを舞台にしたい」「伝えたい」という誠実な願いがまず必要であろう。観客もまた、これまで見てきたさまざまなものの記憶から心を解き放ち、声高に反戦を訴えず、現代の若者たちが心を尽くして曾祖父母たちの日々を想像し、今とこれからに繋げようとする意志が示された舞台をきちんと受け止めたいのである。

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