因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

くちびるの会第3弾公演『カイコ』

2015-11-13 | 舞台

*山本タカ(1,2,3,4,5,6,7,8,9)作・演出  公式サイトはこちら スペース雑遊 10日で終了(1,2
 「こどもの目でみる、おとなの絵本」のサブタイトルがあり、この夏日本の30代公演『ジャガーの眼2008』で木野花の演出助手をつとめた山本タカが、培ったものをいかに発揮するのか注目される。

 主人公のマコトは、恋人と暮らすアパートからときどき深夜の町を徘徊する。ある晩犬を連れた少年と出会ったマコトは、回想列車に乗り、自分の過去に出会う旅をすることになる。客席背後の通路も有効に使い、幻想的な空間の構築に成功した。客席の反応もよい。大千秋楽を迎えてなお、変化する可能性をもった舞台である。

 「この人は」と見定めた劇作家に対して、思い入れが強いあまり、冒険や逡巡を柔軟に受けとめられないことがある。筆者が山本タカの舞台に出会ったのは2010年の晩秋に上演された『覗絡繰-ノゾキカラクリ-』だ。当日リーフレットの、現状に疑問を持ち、全てをゼロに戻す決意をして、もっと素直に芝居を作ろうとこの公演を打つことになった・・・というくだりを改めて読みかえす。自分にとってははじめての出会いだが、彼らにはそれまでの舞台があり、 迷い悩みながらの挑戦であったのだ。

 山本タカは、古典と言われる戯曲や小説をベースに、大胆な切り口で独自の世界を切り開く作品を上演してきた。完全オリジナルよりも、何らかの「元の話」があるほうが舞台に入りやすく、劇作家がときに原作の縛りにもがきながら、ときに伸び伸びと自由に発想を広げる様相がたいそう魅力的であった。それが次第に変容していったとき、自分には少なからず戸惑いがあり、いつのまにか「自分がこうあってほしい劇作家」、「自分が見たい舞台」の枠に縛られてしまったのではないかと思う。

 新ユニット・くちびるの会を旗揚げして3本めの作品だ。連続出演して山本タカ作品の核になりつつある俳優陣のほかに、毎回ちがう客演を招くことで新しい風を呼び入れている。前述のように木野花のもとで演出助手としてみっちり修業もし、さまざまに知己を得て人脈も広がったのではなかろうか。
 俳優が生身の存在であるのと同じく、観客もまた生身である。しかも後者は公演ごとに顔ぶれが変わる。ひとつの台詞、場面に対して昨夜とちがう反応であることは珍しくなく、俳優は客席の変化にも負けずに演技をしなければならない。
 これが『カイコ』公演では非常に良好に行われたのではないかと想像する。抽象的な表現になるが、俳優はいずれも力強く、自分の持ち場を誠実につとめるだけでなく、相手役の台詞や動きをしっかりと受けとめている。何より「ぜんいんでこの舞台を作り上げよう」という気概に満ちている。そういう舞台は観客にとっても好ましく、内容や作者の意図を理解し把握する以前に、自然に受け入れられるのである。

 今回は舞台美術や演出、個々の俳優の演技など、具体的なことは書かずにひとまず置く。くちびるの会の次回公演は来年6月、吉祥寺シアターである。これまでに比べて劇場のキャパは格段に大きい。それに負けない作品を書くこと、集客のための広報宣伝も今まで以上に注力しなくてはならないだろう。そして客席に身を置く自分もまた、過去の記憶にとらわれず、思い込みを捨てて劇作家の新しい歩みを祝福すべく、心身を鍛えて新作に臨みたい。

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