因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

風琴工房『アンネの日』

2017-09-17 | 日記

*MITAKA”Next”Selection 18th 詩森ろば作・演出・宣伝美術・衣裳 公式サイトはこちら 三鷹市芸術文化センター星のホール 19日で終了(1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19
 昨年の紀伊国屋演劇賞個人賞を受賞し、勢いに乗る詩森ろばの新作は、新しい生理用ナプキンの開発に挑む女性たちと、彼女ら一人ひとりの生理=人生、命をみつめた会心作である。女性の作・演出の「男芝居」(登場人物が男性だけ)と言えば、野木萌葱のパラドックス定数が即座に思い浮かぶが、詩森ろばの舞台もとても刺激的だが(201110Archives of Leviathan 20139『hedge20152『penalty killing 2016年7月 『insider hedge2』)、今回は女性ばかり8人が登場する。

 8人の女優が適材適所の好配役で、それぞれ自分の個性、与えられた役への姿勢、作品ぜんたいのバランスなどをきちんと捉えた演技であった。詩森ろばの企業における製品開発に勤しむ女性という点では、化粧品会社を描いた2007年春の『紅の舞う丘』が即座に思い出される。この舞台と同じく、やる気満々の前のめりの社員がいて、わけわかんない、ついていけないとパニックになりながら結局協力している先輩や同僚のキャラ設定や、演技の造形はややありきたりであり、演技が強すぎるきらいはあったが、それでも本作の持つ魅力を味わう妨げにはならなかった。

 冒頭から8人が一人ひとり初潮の思い出を語る。小学5年生のとき、女子だけ一室に集められ、女の先生から生理の話を聞き、おそろしく趣味の悪い映画を見た経験は、多くの人に共通するものだろう・・・と思ったが、もはやこれは古い経験らしく、この手の話はまったく出てこなかったのはある意味で衝撃である。しかし実際この身に起こるまでは、いくら話を聞いたり本を読んでもわかるものではなく、「おなかが痛くなって、パンツを見た」ときの衝撃や、家族に打ち明けたり、男子にからかわれたり、「初潮あるある」エピソードには笑いもあり、切ない記憶を呼び覚ますものでもある。

 初潮にはまだ甘い追憶的情緒があるが、その後の生理と日常生活における「あるある」は、まったくもって面倒でうっとおしく、「この日々を少しでも快適に乗り切りたい」と、生理用ナプキンに求めるものもより現実的、具体的になってくる。

 開発者、研究者、企画営業者それぞれの専門知識や経験から喧々諤々の議論が繰り広げられる場面、そこから一転、仕事と結婚や出産を両立すること、パートナーとの関係、少女のころから解けずにいる親とのわだかまりなどを語る場面などにも、「あるある」だけでなく、「そうだったのか…」と思わせるところもあり、緩急メリハリの利いた2時間あまりの舞台を楽しんだ。

  冒頭場面に戻る。それまで賑やかでユーモラスな初潮告白場面だった舞台の雰囲気が不意に静まり、つぶやくようなピアノの音楽が流れて8人めの女性は、「わたしには生理がありません」と語りはじめる。舞台にセクシャルマイノリティーの問題が加わったことは、昨今LGBT問題が多く語られることを考えると、世情を反映していることにほかならない。しかしLGBTとは別の面で非常にデリケートであり、扱い方によっては舞台の方向性が変わりかねない危険性も想像されるが、原発性無月経というケースへの踏み込みも知りたいと思った。

  開幕以来、ネットには本作への共感と賞賛があふれている。「涙がとまらなかった」というメッセージも多く、実際客席からすすり泣きも聞こえた。が、自分はそこにはいたらなかった。何かどこかかが、涙へ届かなかったのだろう。それは決してネガティブな印象ではない。生理というものの、得も言われぬもの悲しさ。無邪気な子どものままではいられないこと、面倒で痛くて決まりが悪い。大人からすれば、娘も女の人生を歩み始めたことは喜びでもあろうが、同時に痛ましい思いもあるのではないかと想像する。

 がんばれ女の子、がんばれ人生というメッセージは、できれば素直に受け取りたいものではあるが、「女にはこんなつらいことがある。男ども思い知ったか」的にはなりたくない。さらに詩森ろば作品に、なぜか辛辣な男性観客というものも確かにいて、ぜひ意見を聞いてみたい。

  そして終演後不意に思い浮かんだのは、もし舞台作品として成立する可能性があるのなら、「コンドーム」の開発に勤しむ人々のことを、詩森ろばならどう描くだろうかということだ。使うのは男性だが、そこにはパートナーとの関係が否応なく照射される。お互いがより快適に幸せに性を含めた人生を楽しみ生きるための必需品、魔法にも武器にもなりうる点でも、生理用品よりさらに語りにくいだけに、非常に魅力的な題材ではないだろうか。

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