因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

こまつ座『雪やこんこん』

2012-02-29 | 舞台

*井上ひさし作 鵜山仁演出 公式サイトはこちら 紀伊國屋サザンシアター 3月11日まで  (1,2,3,4,5,6,7)
 本作は中村梅子を市原悦子が演じた初演か再演がテレビ放映されたものを1度、生の舞台は宮本信子版の再々演を1度みており、これで3度めになった。同じ作品を何度もみるのは『頭痛肩凝り樋口一葉』や、『イーハトーボの劇列車』など、それが好きで好きでたまらないからなのだが、正直なところ『雪やこんこん』は、あまりそう言えない作品なのだ。あらら、書き始めからこんなことを。

 昭和29年の暮れ、大衆演劇の中村梅子一座が雪深い北関東の芝居小屋に乗り込む。「一座総勢18名大挙来演」の触れ込みが、やってきたのは座長をいれて6人きり。正月興行まで何とかもちこたえたい。女座長・中村梅子(高畑淳子)は一座の起死回生をかけて、芝居小屋のおかみ佐藤和子(キムラ緑子)とともに大芝居をうつ。
 泥臭いけれども、役者のがんばりがみる者の心を温かく満たす演劇賛歌である。

 これからご覧になる方、とくにはじめてという方はここから先は、どうか観劇後に。

 

 座長とおかみの大芝居というのが一筋縄ではいかず、ひとひねりもふたひねりもあって、結局ほんとうはどうだったのかはよくわからない。同じ楽屋ものでも『キネマの天地』ほど、謎解きが中心になる作品ではないから、その大芝居の裏表がまわりくどく、しっくりこないのである。最後はみんなでがんばろうというところに収まるのだから、ここは野暮を言わずに役者の奮闘ぶりを素直に楽しんだほうがよいのだろう。

 公演パンフレットthe座掲載の出演者のインタヴューを嬉しく読んだ。こまつ座初参加の俳優さんが多く、どなたも井上ひさし作品に出演できる喜びを生き生きと語っていらっしゃる。新劇系劇団の若手あり、ミュージカル界のスターあり、アイドルグループ出身ありと実にさまざまだ。本作のラストシーンは、鏡の前で座員が化粧をしながら、座長の口立て稽古をうけ、出演者の顔触れを全員が渡り台詞でテンポよく語って終わる。
 こうして井上ひさしの作品は受け継がれてゆくのだなと、胸が熱くなるひとときだ。
 これまでみた上演では、最終場で役者が顔をとんでもない色に塗りたくっていて、一人芝居の『化粧』ならともかく、その意図がまったく理解できないために一気に引いていた。今回もそれを心配したのだが、大衆演劇独特のべったりとした白塗りに留まっていて安心した。

 高畑淳子が堂々の主役である。舞台を中心に地道に活動していた人が、バラエティ番組で一気に全国区の人気を得た。2度の結婚、離婚や子育ての苦労を語るすがたは飾り気がなく、しかし私生活をあけすけに晒すわけではなくて、決して下品にならず、みる者に親しみや共感を抱かせる。高畑淳子の魅力は、素をみせるバラエティの分野で掘り起こされ、それが俳優業にもいい影響を与えて、まさに円熟の実りにいたらんとしていることを実感した。
 演出の鵜山仁は初演のときに、「この芝居で描かれる『いい人たち』の劇団のあり方に、むしろ反発が強かった」とのこと(the座掲載)。演出家が本作に対してこのような印象をもっていたことに、逆に安堵した。次の上演までに『雪やこんこん』をもっと好きになれそうな予感がする。

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