因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

林光・歌の本Ⅰ~Ⅳ全曲を歌うアンコール公演

2019-07-23 | 舞台

*武蔵野スイングホール 23日1回のみ
 テノールの金子左千夫、ソプラノの中馬美和、そしてピアノの大坪夕美は、2012年から2018年にわたって7回のコンサートを行い、作曲家林光が50年に渡って作り続けたソングの自選集『林光・歌の本』全4冊(Ⅰ四季の歌、Ⅱ恋の歌、Ⅲものに寄せる歌、Ⅳことに寄せる歌)全134曲!を歌いきった。 全公演制覇を意気込んでいたのが予約に出遅れて聞き逃した年もあった(過去記事はこちら→1,2)。観客にとってこのたびのアンコール公演はただただ嬉しく、ありがたい限りであるが、作り手にとっては、134曲の中からひと晩のステージにどれだけ歌えるのか、まず選曲はまことに悩ましい問題であったろうし、曲順を決めることもむずかしかったことだろう。

 今宵のステージは、萩京子詩・曲による「わたしの好きな歌(林さんに)」で幕を開けた。これは2001年12月、林の70歳を祝うコンサートのプレゼントとして作られたものとのこと。原曲はソロだが、2013年にデュエット版に編曲されたその歌は、オープニングにふさわしく、ピアノの軽やかな前奏に導かれ、歌を歌うこと、作ること、聴くことの喜びに溢れるものであった。続いて林光18歳のときの作品「かわいいシュゾン」から、68歳のときの作品「わたしのすきなこなひきさん」まで、作曲時の年齢順に24曲が披露された。

 このシリーズは、前説やあいだの曲紹介のトークも楽しみのひとつである。それだけ林の歌の背景や歴史を熟知し、客席への届け手として歌い込んでいなければできないことであり、客席はほんとうにリラックスさせてもらい、楽しく聴いているが、ふと当日リーフレットに記された曲紹介の細かい記載を読むと、頭が下がる思いである。

 特に印象に残った歌を挙げてみよう。
◆谷川俊太郎詩「きょうがきた」…1976年、東京都足立区竹の塚小学校の校歌であった。詩のなかに学校名、歴史と伝統が無く、学校のイメージが伝わらないと反対する先生もあったとの紹介になるほどその通りの歌なのだが、これほど明るく活力に満ち、そして優しい校歌なんて素敵じゃないか!
◆林光詩「夢へ」…1980年、こんにゃく座創立10周年記念の歌。国立歌劇場のオペラ批判を大胆に歌い上げ、誇りを賭けてこんにゃく座の座員たちを鼓舞する。うろおぼえだが、「公園に打ち捨てられた古いバスの横腹に書かれた文字は『オペラ』と読める」という箇所があった。これを「新劇」に置き換えてたら…などとつい妄想が。オペラで喰う(生活していく)こと、演劇で喰う
ことはいまだに困難である。
◆林光詩「がっこう」…1992年東京都江戸川区立宇喜田小学校創立10周年記念のための歌。これまで何度か聞き、歌ったこともある大好きなソングである。いつのまにか「がっこう」は子どもにとっても先生や親御さんたち大人にとっても、あまり楽しいところではなくなっている。子どもたちにとって「がっこう」で過ごす時間が楽しければ、大人にとっても同じではないだろうか。ものごとはそんなに単純ではないけれども、聴くたび歌うたび、希望が湧いてくるのである。

 アンコールコンサートが終わってたが、やはり「もっと聴きたいなあ」というのが正直なところである。全曲を歌う→アンコール→さてつぎは?さまざまに趣向を凝らすもよし、原点に立ち戻って、いっそうシンプルに歌い上げるもよし。ぜひ期待させてください。

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