因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

劇団ロ字ック第12回公演『滅びの国』

2018-01-18 | 舞台

*山田佳奈作・演出 公式サイトは こちら『滅びの国』1,2,3,4,5,6,7,8下北沢・本多劇場 21日終了
 
結成8年にして、ロ字ックが下北沢・本多劇場に進出した。何不自由ない暮らしをしながら、心の通い合わない夫の言動に傷つき、「ハムの人」と呼ぶ主婦に代表される心を開けないご近所と折り合いをつけることに疲れた主婦透子(吉本菜穂子)が、金で若い男・祥示(三津屋亮)を買った。細身でハンサム、女の扱いを心得たサービス上手の彼との逢瀬を重ね、夢中になっていく。彼は父親から金の無心をされるという厄介な事情を抱えている。彼が暮らすシェアハウスには、そこを根城とする男女のやさぐれた関係があり、そこにやってくる正体不明のやや年の多い女や、貧困と家庭不和の故郷を捨て、微かな希望を抱いて日本にやってきた中国人女性が絡む。2時間30分休憩なしとのアナウンスにやや怖気づいたが、まったくの杞憂であった。

 舞台に複数の空間を設定するのは、ロ字ックの特徴のひとつである。空間それぞれに物語があり、登場人物はそのあいだを激しく動きながらひとつの物語にが展開していくのである。人物が舞台を横に動く場面が多いのも特徴だ。
 そしてロ字ックに独特なのは、剥き出しの自己、赤裸々な表現、えげつないといってもいいほどの激烈な人々の心の様相であり、その表出である。それらは魅力的でもあり、いささか強すぎて食傷することもあった。しかし今回は劇場の広さ(客席の広さも含めて)が幸いし、こちらも余裕をもって受け止めることができた。

 物語後半において、主人公が夫の部下(山田佳奈)に不倫の事実を突きつけ、部下が逆切れする場面がある。部下の口調や態度は非常にふてぶてしく、可愛げがない。山田佳奈が表情から台詞の言い方から、心憎いほど巧みに演じて、気持ちが良いくらいである。従来のロ字ックなら、このあたりをこれでもかというほど強調していたが、あんがいあっさりと部下が引き下がった印象だ…いや待てよ。そうではなくて主人公が変容したからではないか。

 当日リーフレットに作・演出の劇団主宰山田佳奈が、劇団結成から8年のあいだにさまざまな人との出会いがあったこと、そして「誰かを受け入れる、他者を許せるようになりました」と記している。

 頑なでありながら流されるところ、周囲の評価で自分が決まると思い込んでいるところ、自虐的でありながら人一倍プライドが高いところなど、ロ字ックの作品には心を拗らせた厄介な人物が多い。今回も主人公はもちろん、シェアハウスに住む若者たちの様相に色濃く表現されているが、気弱で自信がなく、夫の顔色を窺い、強引なご近所さんに遠慮していた以前の主人公から、終盤に進むに従って、自分の足で立ち、したたかに生きる女性に成長した。そして金で割り切ろうとした祥示との関係にも、もしかしたらささやかな新しい物語が生まれそうな予感もある。このあたりに山田佳奈のこの8年の感慨が反映されているのだろう。柔らかで清々しい終幕であった。

 主人公の吉本菜穂子の声や台詞の発し方がもつ個性を、抑制した造形にすることは、吉本の力量からすれば可能であると思われるし、「ハムの人」役の黒沢あすかはいささか戯画めいており、こちらももう少し複雑な性質を持たせると、たぶんもっと嫌な人物になるであろうが、舞台の旨みが増したと想像される。また大鶴美仁音が演じる中国から来日した女性は、無気力に見える祥示の心の奥底を見抜き、純な愛情を伝えるが、その行く末をもっと知りたい。

  ともあれ、ご縁があってここ数年の公演に続けて足を運ぶ者として、本多劇場の広さや歴史に負けず、相当のプレッシャーがあったであろうがそれに打ち勝ったロ字ックの健闘を客席から喜びたい。

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