因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

山本さくらパントマイム第49回公演『gift ギフト』

2019-07-10 | 舞台

*山本さくら作・演出・出演 公式サイトはこちら ザムザ阿佐ヶ谷 7月10日2回公演
 前回公演『ハーモニー』から1年。今回は原田麻美のパントマイム、君塚仁子のオカリナとの競演がみどころだ。舞台が明るくなると、とんがり帽子をかぶったマッシュルームカットに黒ぶち眼鏡の山本さくら。昨年のあの楽しいステージの記憶が蘇り、一瞬にして舞台に引き込まれた。

 2014年の「さくらさろん」で初演され、デュカスの曲をマイム化した「魔法使いの弟子」を皮切りに、優雅なロングドレスに身を包み、糸紡ぎから機を織り、一枚の布を作り上げる「絲」、一生懸命だが料理下手な妻と、そのへんてこ料理に悪戦苦闘する夫とのやりとりを原田麻美が演じる「明るい未来」、オカリナの音に合わせて鳥たちの生態を描いた「ブレイクタイム」、別の場所で働いている男女の日常が交錯する「TOKYO・人」、角野栄子作『魔女の宅急便』に想を得て創られた「旅立ちの朝」まで、あいだにオカリナ演奏「ジュピター」、「アメージング・グレース」を挟んで1時間20分のステージである。

 もっとも印象深かった「TOKYO・人」について。原田と山本は、それぞれ別の場所で働く男女である。朝起きて身支度をし、電車に揺られて職場に行く。パソコンで書類を作ったり、電話を受けたり忙しい。一人暮らしの部屋に帰るとビールを飲みながら食事をし、眠る。日常生活のさまざまが丁寧な動きで描かれ、仕事帰りに立ち寄った書店で何となく顔を合わせ、同じジムでボルダリングをしているところで、「あのときの!」と顔見知りになる。このあと時間ありますか?らしきやりとりから、意気投合して食事をし、映画を楽しむ。が、男が女の手に触れたそのとき…。

 ここで二人は互いの気持ちを確かめ合い、ハッピーエンドと疑わなかったのだが、そうではなかった。男性が勇み足だったのか、女性が奥手だったのか、二人はまた別々の空間での生活に戻るらしきことが示されて、物語は終わる。温かく優しく微笑ましい物語が展開するものという思い込みが静かに退けられる終幕に戸惑ったが、もしかするとすべては最初から幻想だったという見方も可能であり、これもまた味わいであると受け止めている。男女の気持ちは想像するしかないが、台詞のないことが逆に物語を深める不思議な一幕である。

 ステージを大きく使い、思い切り走りまわりながら、簡単な動作であっても決して疎かにしない。山本さくらのパントマイムは大胆かつ繊細だ。前回はハッピージョー&ノスケの歌、つまり言葉が大きく関わる公演であったが、今回はオカリナ演奏である。ことばが一切無いことによって、ステージはより寡黙に、そして観客の想像力をいっそう豊かに喚起するものとなったのである。

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