因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

庭劇団ペニノ『笑顔の砦』

2007-02-25 | 舞台
*タニノクロウ作・演出 下北沢駅前劇場 公式サイトはこちら 公演は3月4日まで 第17回下北沢演劇祭参加作品
 この記事にはネタばれがあります。これからご覧になる方はご注意ください。
 公演チラシには「介護とは何か?痴呆とは何か?を世に問う」とあって、いずれは避けては通れない道だけに、きっと楽しいとは言いがたい舞台であろうとあらかじめ心に予防線を張って客席についた。どこか海辺の小さな町の古いアパートの2部屋が舞台である。下手には漁師タケさん(久保井研)が住み、漁師仲間が朝夕に訪れる。タケさんは45歳の独り者で彼らの兄貴分らしく、料理の腕前もなかなかのようだ。男たちが取れたばかりの魚で豪快に朝飯を食う(是非こう表現したい!)場面は、むさくるしい中にも人間の基本的な欲望のひとつ、食欲というものが自然に描かれており、舞台で実際に飲み食いすることの効用については懐疑的なわたしも、普通に受け入れてしまっていた。

 上手の部屋にはいつのまにか30歳くらいの女が引っ越していたらしい。老婆(マメ山田)のお襁褓を換える場面から始まって、いよいよリアルな介護ドラマが始まるかと身構えた。女は介護士(五十嵐操)で、老婆の肉親ではないらしいのだが、押し入れに自分の着替えを用意していたり、時には部屋に泊まったりとよくわからない。「隣に若い女が引っ越して来た」と男たちは色めき立つが、女はただならぬ雰囲気で彼らを全く受け付けない。そしてタケさんは女と老婆のとんでもない様子を覗き見てしまう。

 老婆の行為は、女に対して「迷惑かけてごめんね」という気持ちなのか、石のように心を閉ざす女に「ほんとうはこうして欲しいんだろう」と捩じれた肉欲をいたぶっているのか、またそれを女がどう感じているのか、どれでもあってどれでもないような、曖昧なままであった。描き方によってはとんでもないキワモノ的場面なのだが、みていて不愉快な気持ちにはならないことが不思議であった。
 
 音楽のせいなのか、終演後思いがけず優しい心持ちになっている自分に気づく。物を食い、排泄をし互いの肉体を求め合う。これは普通の自然な行為である。どれも人間のありのままの姿であることだと素直に受けとめられた。特に大事件も起こらず、何か強烈なメッセージがあるわけでもないが、これはやはり愛の話ではないかと思う。誰かに今の気持ちを話したいような、黙っていたいような不思議な感覚。電車の窓からの風景が柔らかく目に映った。

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