因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

『くちびるの展会2』

2021-07-09 | 舞台
*山本タカ作・演出 公式サイトはこちら (2013年まで→1,2,3,4,5,6,7,8,9)(2014年以降→1,2,3,4,5,6,7,8)下北沢/OFF・OFFシアター 19日まで
 昨年5月の公演が1年延期ののち実現の運びとなった。パンデミックによって世界は激変を余儀なくされたが、当日チラシに主宰の山本タカが記すように、「この一年で世の中は大きく変わった様で、それでいて本質の部分は何も変わってない様な」感覚は確かにある。公演チラシには「ちっぽけな人間の、ちっぽけな嘆きをわざわざ描く」、「慈悲深い低所得者達のアンチテーゼ3作!」のキャッチコピーが踊る。満を持して披露する3つの短い物語を、鎮まりかえった初日の客席が待ち受けた。

 1,「実家の兄弟」…サラリーマンの兄(薄平広樹)とアルバイトをしながら舞台俳優を続けている弟(藤家矢麻刀)が実家で両親と同居している。両親が旅行中のある夜更けのこと。弟はある劇団のオーディションに応募しようとしているのだが、そのいちいちに兄は口出しせずにはいられない。
 一見正反対の生き方をしている兄弟だが、どちらも葛藤や鬱屈があり(冒頭、出産祝いを贈った友人と兄が交わす短い電話のやりとりに感じられる何か)、うっかりするとマクドナーの『ロンサム・ウェスト』になりかねない設定だが、激しい口論をしながらも決裂には至らない。
 
 2,「喫煙所のエレジー」…オフィスビルの屋外喫煙所。俳優のマネージャーをしながら、自身も俳優である村瀬(青沼リョウスケ)は、キャスティングも担当するプロデューサーの川島(木村圭介)に何とか仕事のきっかけをもらおうとしている。そこへ泥酔した中年男の後藤(堀晃大)がころがりこんできた。
 身重の妻を抱えた事情もあり、何とかして働きたい、それも俳優としての仕事が欲しい村瀬は、精一杯の笑顔と低姿勢で川島に近づく。その川島もおそらく相当なストレスを抱えているのだろう、自分が優位に立てる相手に対してパワハラ体質を露にする。このパワーバランスの中に後藤が飛び込んでしまったことで、村瀬はある決断をする。

3,「ガム・リムーバー」…父の跡を継いだ二代目社長(薄平)が懸命に切り盛りする小さな清掃会社。本業が俳優の井内(木村)はやり手なだけに不満も多く、大学生のバイト佐川(藤家)の一挙手一投足が気に入らない。ベテランの堀田(堀)が緩衝材的存在か。そこへ元従業員で、今は脚本家として活躍する風間(青沼)が現れた。
 3作ともまったく別の物語であるが、1作めに舞台俳優の弟、2作めに俳優兼マネージャーが登場することから、自分がしたいことを続けるために別の仕事をせざるを得ない事情を抱えた人物とその背景が、3つの物語を緩やかにつなぐひとつのモチーフであるかと思われた。
 最初の2本それぞれに「この先はどうなるのだろう」と観る側の気持ちをつなぐ終わり方で、それに対して明確な答を提示するものではない。しかし2作めの村瀬を変格させたのが3作めの風間であり、同じく1作めの兄的な人物として3作めの社長と思わせるところがある。

 自分にとって、ある心地よさをもたらしたのは、今回の3作いずれにもコロナ禍が反映されていなかったところである。この1年あまり、パンデミックに翻弄される様相を誠実に描いたいくつもの作品に出会えたことは大いなる喜びであった。心強く、幸せに思う。だが、そこに疲れを覚えるのも正直な気持ちなのである。「くちびるの展会」2は、「こんなときこそ、しばし現実を忘れて楽しんでほしい」という方向性は持たない。ファンタジー的な描写ではなく、日常会話を丁寧に積み重ねるリアルな作劇である。今の社会の最大の問題であるコロナ禍を、さりげなく描かない。示されるのは容易ならざる社会の一面であり、人間の心の厄介な有り様だ。一筋縄ではいかない内面を持つ登場人物の造形は容易ではなかったと想像するが、5人の俳優はやや熱量が高いところもあったが、心が波立ってしまったことを見せまいとしたり、ささやかだが確かな決意をした清々しさなどを自然に見せて好ましい。山本タカの「この一年で世の中は大きく変わった様で、それでいて本質の部分は何も変わってない様な」という感覚が3作の核であり、そこからコロナ禍の熱とは違う演劇的平常心、一種の救いを得ることができたのだった。
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