因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

第七劇場『かもめ』

2011-09-08 | 舞台

*アントン・チェーホフ『かもめ』ほか、『ともしび』などから引用構成 鳴海康平 構成・演出・美術 公式サイトはこちら シアタートラム 11日まで (1,2)
 本作は2007年東京で初演ののち、2010年2月千種コレクション(名古屋市・千種文化小劇場)に招待され、同年12月三重県文化会館よりワールドツアーをスタート、パリで上演されたあと、岡山県真庭市、今回のシアタートラム、広島市を巡演する第七劇場、鳴海康平の代表作である。
 過去記事を読めば第七劇場が自分の苦手科目であることは明らかだが(汗)、今年は『かもめ』の当たり年と(1)決意して、観劇することにした。プレヴューの今日は何と500円の驚異的価格。当日券希望と予約済みの観客、招待券の方が受付でやや混乱している。トラムにしては珍しく全席自由、整理番号順の入場に、観客の誘導にも少々もたつきがみられたが、席につけば気持ちがすっきりした。白い床に大きなテーブルと椅子。下手にはブランコ、上手にはかもめのオブジェが吊り下がり、白服の女性数人が板付きになっている。

 観劇前にチラシ(といってもA3二つ折りで、厚手の紙を使った立派なもの)掲載された各界の寄稿や前述の海外メッセージを読んでいたので、今回の『かもめ』がいわゆる通常の上演とは異なるものであることをある程度予想し、それなりの心構えを持っていた。
 戯曲のとおりに上演すれば3時間ちかくになる作品だ。第七劇場の『かもめ』は70分である。
 確かに登場人物は5名になり、上演されない場面もある。では本編のダイジェストかというと決してそんなことはない。今回の『かもめ』は非常に単純な言い方をすると、その後の『かもめ』である。 ニーナに再会して絶望したコースチャが自殺した、その後神経を病んでしまったニーナの心模様に焦点をあて、湖のほとりの劇場でコースチャが戯曲を書いたひとり芝居を演じるために「わたし、遅れなかったわよね?」と駈け込んでくるところから、コースチャの自殺までを、白服の入院患者たちやドールン医師とのちぐはぐなやりとりで見せていく。

 決してわかりやすい舞台ではない。舞台『かもめ』上演をいくつも体験した上で、ある程度の深度を持って戯曲を読み、自分なりのチェーホフ論、『かもめ』像があり、なおかつそれにしばられず柔軟に受けとめるゆとり、演出家の挑戦を受けて立つ気概が必要だろう。いやあまり気負わないほうがいいのかしら。自分は中央ゾーン前寄りの席についたので、客席ぜんたいの空気を感じとることはできなかったが、少なくとも近くの席の方々の様子ですら感激や陶酔ばかりでなく、困惑や疲労が入り混じり、なかなかに複雑なものであった。
 70分。演目によっては「あっという間」と感じる時間だ。今回の70分は自分にとって決して短くはなかったが、では長くて苦痛だったかというとそれとも違うのだった。

 もたもたとはっきりしない記述がもどかしい。大学時代の恩師が「『かもめ』はむずかしい」とおっしゃっていたことを改めて思い出す。むずかしくない作品などないのだけれども、やはり『かもめ』はつかみどころがなく、わかりにくい。しかしそこがまた魅力的なことも確かなのである。
 触れようとすると鋭い刃で傷つけられそうで、しかし気がつくと柔らかい雪のなかに抱かれているような今夜の『かもめ』。終始張りつめているのにどこか脆さも感じられる。自分の『かもめ』歴の大切なひとつとして記憶されるものになった。

コメント   この記事についてブログを書く
« 劇団けったマシーン第6回公演... | トップ | 青年団リンク 劇団水素74%『... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

舞台」カテゴリの最新記事