因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

東京夜光公演 『奇跡を待つ人々』

2021-07-26 | 舞台
*川名幸宏作・演出 公式サイトはこちら1,2,3,4,5,6,7,8,9)15日~18日/せんだい演劇工房10-BOX box1 24日~8月4日まで/こまばアゴラ劇場 
 今年4月に劇団化した東京夜光初の作品は、「何年後か、未来の、ある女の一室」(公演チラシ)。舞台中央にベッドが1台置かれ、その向こうにドアらしきものがあるきりで、シンプルというより生活臭はもちろん、人の気配すらしないほど無機的な部屋(舞台美術/小野まりの)で物語は進行する。ベッド横たわっていたノン(笹本志穂)がゆっくりと身を起こす。そこへ過去からタイムスリップしてきた人間イチ(丸山港都)と、AIのレイ(本田諒/劇団短距離男道ミサイル)、未来からの見学者エグジ(草野峻平)もやってきて―。

 近未来もの、SFものと括れないところがあり、サスペンス風の怖さ、謎解きもあって、捉え方を迷う作品だ。違う時空間に居るはずの人間が出会ってしまうこと、さらに限りなく人間に近いAIも加わることで、話はいよいよ複雑になる。4人の登場人物はそれぞれに、自分は何者で、なぜここに居るのか、何をしたいのかという気持ちを持っているが、相手にはなかなか伝わらない。

 作者の意図や話の先がたやすく読めるものを求めているわけでは決してないのだが、舞台の緊張感に強く惹きつけられながらも、困惑が色濃く支配したことは否めない。物語の設定やそれぞれの人物の主張の理解、把握に終始することなく劇世界に心を預けようとしたが、これがむずかしい。単純ではない物語を受け止めかねた自分の落としどころは、最も主張が異なっていたノンとイチの関係性の変容であった。このあとふたりがどうなるかはわからないが、ひとつの「奇跡」であることはたぶん間違いないだろう。

 「過去の人間」、「未来からの見学者」など、その人物の設定をどのように造形するのか。日常会話を積み重ね、人物の心象や背景を探るのとはまた違うむずかしさがあったのではないだろうか。当日リーフレットに「部屋の住人」とあっさり書かれているものの、ノンという女性の心は現実から大きく乖離しており、立ち位置が決めにくい存在だ。笹本志穂は声や表情を緩急自在に変化させながら、最後にほんとうのすがたを見せる。対してイチは現実的で生々しい性質をあらわに見せる。丸山港都は傷つき汚れてボロボロになりながら、イチを透き通るような存在に昇華させた。エグジ役の草野峻平は記号的なコメディリリーフに収まらず、哲学者の風格を垣間見せる。AIのレイは(そのように作られているのではあるが)ほかの3人よりも心優しく平和的な性質を持つ。本田諒の素直な造形が好ましく、それだけに結末はいっそう悲しい。

 昨年は『BLACK OUT』を筆頭に、コロナ禍にあって大いに気を吐いた東京夜光と作・演出の川名幸宏は、1年を経ていまだ終息の出口の見えない状況でまた別の方向へ歩み始めたようだ。可能な限り伴走したい。ひとつの舞台が生まれることは奇跡の積み重ねであると思う。そしてその舞台と観客が出会うことも、小さな奇跡であるから。
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