因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

『腰巻お仙 振袖火事の巻』

2018-12-05 | 舞台

*唐十郎作 小林七緒演出 スズキ拓朗振付 公式サイトはこちら Space早稲田 16日まで
 文化庁委託事業「平成30年度次代の文化を創造する新進芸術家育成事業」日本の演劇人を育てるプロジェクト 新進演劇人育成公演 俳優部門…という長い前書きがあり、流山児祥がプロデューサーをつとめる。

 公演の主催、概要が具体的にどういうことを指すのか、携わる俳優やスタッフにとってどのような意義を持つのかは実はよくわからないのだが、文字通りと受けとめた。1969年、機動隊が紅テント周囲を包囲する中、新宿中央公園で決行された、状況劇場初期の伝説の物語。俳優は、育成対象とされた数人の若手に、中堅やベテランまで、流山児事務所、柿喰う客、Studio Life、劇団わらく、サスペンデッズなどさまざまな劇団から参加しており、さらに大久保鷹までが揃うという大変な座組である。故障して送風しか出ない空調と、ほぼ満席の盛況ゆえ、劇場の温度、濃度は芝居の後半からしだいに高くなり、身体的に辛かったことは確かだ。終演後、暑さや疲れ、空気の悪さに「やれやれ」といった雰囲気もあった。しかしそれが吹き飛ぶほどの手ごたえ、高揚感に満たされる一夜となった。

 唐作品には劇中にしばしば歌う場面がある。歌いづらいメロディであり、といってミュージカルのように歌い上げるものでもなく、俳優にとってはひとつのハードルであるだろう。台詞にしても、呼吸とのバランス、リズム、息継ぎなど容易くはない。それでも「この芝居をやりたい」というエネルギーがすべての俳優から強く発せられており、客席にも「この舞台を見たい」という熱気が漲る。唐十郎作品の持つ力は演じ手、受け手双方に半端ではない熱量をもたらすのである。

 例によって物語の構造は簡単に理解できるものではなく、場面転換や人物の出入りも目まぐるしい。舞台に身を委ねることで精一杯の観劇であった。1969年の初演との比較ができないのに心に沸き起こる懐かしさ、同時にノスタルジー満載の物語設定にも関わらず、そこからにじみ出て、しばしば客席に襲いかかるような新鮮な毒気は何なのだろうか。今回が初めての方、これまで別の公演で何度か拝見した方と、俳優との出会いもさまざまだが、いずれも「こんな演技をする俳優さんなのか」という驚きや、唐十郎の劇世界に数十年間棲みついているかのような大久保鷹を相手に、一歩も引かない堂々たる演技を見せる若手を見ると、次の出演作がいちだんと楽しみになるのである。

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