因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

green flowers vol.18『かっぽれ!締』

2017-09-21 | 舞台

*内藤裕子作・演出 公式サイトはこちら1,2,3,4,5,6,7)シアター風姿花伝 24日で終了
 落語の今今亭東吉師匠とその一門、彼らをめぐる人々の季節ごとの大騒動を描いたグリフラの代表作は、2011年晩秋の『かっぽれ!』はじまり、翌年『かっぽれ!春』2013年の『かっぽれ!~夏~』に続いて、4本めの本作をもって遂にファイナルとなった。開幕は毎度軽快な出囃子に乗って、二ツ目の吉太が明るく登場、「待ってました!」…と前のめりになっていると、一門唯一の女弟子である「石川さん」が前座の今今亭東々(とんとん)として登場し、本作のタイトル「かっぽれ」の語源、これからはじまるお芝居の前説、観劇中の注意事項などを落ち着いて語る。堂々たる噺家ぶりに、ああ、みんな成長したのだなと、ここで早くもしみじみした気持ちに。

 毎度もめごとはたくさんがあるが、誰も悪意をもって相手を陥れたり裏切ったりしない。師匠を慕い、きょうだい弟子同士が互いに思いやり、自分のことだけで精一杯のくせに他人の世話を焼こうとする。不器用で不格好で不体裁。ここぞというときに限って大失態を演じてしまう。しかし大切なのはまごころであり、一生懸命やることは何よりその人を輝かせ、豊かな交わりを生むことを教えてくれる『かっぽれ!』の温かさは、何ものにも代えがたい。

『かっぽれ!』との出会いは、わたし自身の演劇歴にとっても重要であり、何本も見ている舞台のひとつだと流すことはできない。大切な宝物だ。したがって、締となる今回の舞台に対しては思うところ多々あり、迷いながらの筆となりそうである。

 これまでの『かっぽれ!』の観劇記録を読み返してみると、大いに楽しみつつも、どこかに必ず引っ掛かりを感じており、今回の舞台は、過去の舞台に対して自分の抱いてきた問いの最終回答にならざるを得ない。

 弟子たちがあれほど慕い、憧れる東吉師匠の高座がなかなか披露されないこと。これは本作の謎でもあり、最終秘密兵器でもあろう。本作の大きな見どころは、噺家が語り始めた落語の世界を、俳優たちが「実演」するところだ。あに弟子がおとうと弟子に語って聞かせるとまもなく、俳優たちが落語の物語の人物に扮し、「柳田格之進」がはじまる。その手つきの鮮やかなこと、若い俳優が老婆を演じたりなど意外な配役もあってとても楽しい。見方を変えれば、一人の俳優に落語一本まるまる語らせるのは非常に困難であろうと想像され、舞台としてより楽しく見ごたえのある場面を作り出すための、緩急心得たじつに心憎い趣向ともいえよう。

 今回はいよいよ東吉師匠が「宿屋の仇討」を語ることになった。体調に不安を抱えていることもあり、かつておとうと弟子だった松野やの社長にだけ語ってみせるという設定だ。いつものように俳優が落語の登場人物に扮しての実演場面となったとき、東吉師匠は腕組みをし、客席と同じ方向からその場面を見守っている。にこりともせず、厳しい顔つきだ。自分の高座を客観視しているようでもあり、もし弟子たちがこの噺を高座にかけるとしたら、どう導いていくかを師匠として思案しているようでもある。

 考えてみれば、落語というものは物語に登場する人物すべてをひとりで語り、演じるのである。それがどれほど難しいことか、それだけに達成できた喜びがいかほどのものであるか、どこまでやっても絶対的な正解のない世界に生きてきた師匠が、まさに黙って語り、黙して教える場として、ただ落語の物語を楽しんでみていたこれまでの『かっぽれ!』とは、ちがった意味合いを感じさせたのである。

 東吉師匠が東々(とんとん)に、女性が噺家になる厳しさと、それを乗り越えていくにはどのような方法があるかを筋道立てて諭す場面もあるが、「語らない師匠」の場面がこれまでにない凄みと、落語への愛着、弟子たち、家族への愛情までをにじませていることが、最終回で得た手ごたえとなった。

  師匠の老いと病が案じられるが、誰ひとり死ぬことも消えることもない。とすると、『かっぽれ!』締の核、肝は何なのか。すべての問題を解決する必要はないが、最終回というものがいかに難しいかを考えさせられた。おなじみの人物それぞれの持ち味を活かし、エピソードを盛り込み、今回の締が初『かっぽれ!』の観客にもわかるように、と言っても説明台詞にならないように過去の出来事や人物の相関関係を示すことなどなど、作品を重ねるごとに、観客の「もっとおもしろく!」という要求は高まり、劇作のハードルも高まっていくだろう。

 シリーズものの楽しさは同時にむずかしさである。受け手としても心地よい劇世界にいつまでも甘えず、気持ちよくお別れをし、次の新しい一歩を楽しみに待とう。カーテンコールで東吉師匠演じる山崎健二の音戸で三本締めをし、自分もまた大好きな『かっぽれ!』に感謝と別れを告げたのであった。

 

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