因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

演劇集団プラチナネクスト 2021年特別公演    『鯨よ!私の手に乗れ』

2021-04-11 | 日記
*渡辺えり作 生田みゆき演出 公式サイトはこちら1,2,3,4)座・高円寺2 12日終了
 一昨年の初演が好評を博した本作の歩みはコロナ禍に翻弄されたといってよい。2020年5月に予定していた台湾公演が2021年に延期され、感染終息の出口の見えない今、もう1年延期が決まったとのこと。2021年の3分の1が過ぎようとしている今ですら、夏のこと、秋がどうなっているか全く予想が付かない。まして2022年はどんな年になっているのか…当日パンフレット掲載の演出の生田みゆきの挨拶文には、演劇界の混乱や現場の苦悩が率直に綴られ、胸が痛む。台湾渡航前の公開稽古を特別公演に切り替え、30名を超える初演のキャストを20名に再編成し、「シリウス」、「ベガ」2チームの交互上演でお披露目となった。

 時空を行き来する複雑な構成を持ち、戦争反対やフェミニズム、格差問題、老親の介護やそれをめぐる家族の軋轢など、ただでさえ盛りだくさんの物語に、社会における演劇の必要性、演劇が人を如何に生かすかといった大テーマまである。ピアノの生演奏に乗せて歌あり、ダンスあり。たっぷり2時間の大作だ。自分は「ベガ」の回を観劇したが、両方に出演するキャストもあって、まさに大奮闘の舞台であった。

 キャストの再編成に加え、戯曲にも手が入れられたと思われ、話の運びや構成を把握しづらかったり、流れがいささかぎくしゃくしているところも感じられた。本作は日本劇作家協会のサイト「戯曲デジタルアーカイブ」で公開されており、観劇の記憶を呼び起こしながら読んでみると、自らの体験を演劇として昇華させた劇作家・渡辺えりの並々ならぬ思いがぐいぐいと迫りくる。

 観劇当日はその渡辺と演出の生田みゆきによるアフタートークがあり、劇中の台詞やエピソードに、渡辺の母が暮らす特養老人ホームでの出来事が多く盛り込まれていることが披露された。認知症の母がホームの職員に「娘もここで一緒に暮らせるようにしてください」と頭を下げたり、娘が母のために贈ったカーペットや公演ポスターが捨てられた等々、演劇の1シーンとしてなら笑えるが、これが実際に目の前で起こることを想像すると、渡辺は「あたし、ほんとうに施設で暴れました」と言うように、相当な修羅場であったことだろう。

 それほどの体験をみごとに劇化するプロの手腕の何と強靭なことか。演劇は美しいものをより美しく見せるだけでなく、そうでないものに対して違う方向から見つめさせる作用がある。社会に、人間に演劇が必要であるのは、演劇が現実の困難に対する柔軟性や対応力、物ごとや人を捉えるときの想像力を喚起することができるためではないだろうか。

 演劇には人を支える力があり、演劇を作ることや観ることによって、より良く生かされることが可能であると気づかされたこと、演劇という大海で、コロナ禍という荒波に揉まれるプラチナネクストの新しい船出に立ち会えたことが何より嬉しい収穫であった。
コメント   この記事についてブログを書く
« 文学座自主企画公演 岸田國... | トップ | 劇団民藝公演 『どん底-1947... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

日記」カテゴリの最新記事