因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

梅田芸術劇場主催公演『黒蜥蜴』

2018-01-19 | 舞台

江戸川乱歩原作 三島由紀夫脚本 デヴィッド・ルヴォー演出 公式サイトはこちら 
 日生劇場公演は1月28日で終了 梅田芸術劇場メインホール 2月1日~5日まで
 
立派な劇場で外国人演出家によるスタイリッシュな演出、美しい女優、豪華な衣装でめくるめくような物語。ゴージャスとはこういうことなのだと嘆息した。
 緑川夫人こと女盗賊・黒蜥蜴を堂々と演じた中谷美紀は、一分の隙もない美しさと貫禄で劇場を制圧し、明智小五郎役の井上芳雄も引けを取らない。一応ストレートプレイなので(という言い方は妙だが)歌う場面はないものの、ミュージカルでの身のこなし、客席への見せ方など、通ずるものは多いと思われる。

 宝石商役のたかお鷹が、成り上がりのねじくれたプライドや、娘への溺愛ぶりなど情けなく嫌なところを惜しげもみせながら、決してステレオタイプに見えないのはやはりベテランの力量である。前半では酔っぱらって醜態をさらしながら、黒蜥蜴に勝利した終盤では堂々たる貫禄のふるまいを見せる。

 その愛娘役で相楽樹という女優をはじめて舞台で見た。NHK朝の連続テレビ小説『とと姉ちゃん』で、主軸の三姉妹のまんなかを演じた女優である。上背があり、上品な顔立ちのおっとりした風情で、とくに強い印象は持たなかった。今回も前半こそお金持ちの苦労知らずのお嬢さん風の演技であったが、黒蜥蜴に捕らえられ、「実は替え玉なの」と告白するあたりからぐいぐいと力を発揮しはじめる。むろんこれは、彼女のお見合い相手で、実は黒蜥蜴に恋慕する部下の雨宮を演じた成河が、巧みで力強い演技によって相楽の力を引き出したのであろう。このように脇に配された俳優の安定感や意外性によって、舞台に弾みと奥行きが生まれた。

 この程度ではすぐわかるに決まっているだろう的な変装や、素人である観客にもわかるのに…といったどんでん返しもある。しかしそれも含めて時代がかった大芝居を楽しむものなのだろう。

 しかしながら、これが90年代に鮮烈な印象を与えた、あのデヴィッド・ルヴォーの演出なのか。あの小さな空間で緊密な台詞のやりとり、俳優の息づかいが伝わる舞台を思い出すと、違和感は否めない。何よりマイクを通した台詞であったことが残念だ。敵対関係にありながら最大の理解者であり、魂の底で惹かれあい、愛し合っているという黒蜥蜴と明智の特殊な愛のありようを、大劇場ならではの舞台装置や豪華な衣裳ではなく、俳優の肉体と声だけで感じ取ることはできないだろうか。
 決して過去をなつかしんだり、安易に比較するのではないけれども、せめて、同じルヴォーの演出(門井均共同演出)で、2006年冬の麻実れいが黒蜥蜴、明智を千葉哲也が演じたベニサンピットでの舞台を見ておきたかったと思うのである。

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