因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

文学座9月アトリエの会『スリーウィンターズ』

2019-09-03 | 舞台

*テーナ・シュティヴィチッチ作 常田景子翻訳 松本祐子演出 公式サイトはこちら 15日まで 信濃町/文学座アトリエ
 テーナ・シュティヴィチッチは1977年クロアチアはザグレブに生まれ、地元大学の演劇学校、ロンドンのゴールドスミス・カレッジを卒業し、ヨーロッパを中心に活躍する劇作家である。2014年ロンドン。ナショナル・シアターで初演された作品が、アトリエの会では9年ぶりとなる松本祐子の演出で日本初演の日を迎えた

 2011年、クロアチアがEU加盟署名の年の11月。結婚式を明日に控えた次女ルツィア(増岡裕子)を囲んで父ヴラド(石田圭祐)母マーシャ(倉野章子)、長女アリサ(前東美菜子)、マーシャの妹ドゥーニャ(山本郁子)が揃った。そこから1945年11月、第二次世界大戦後に場面は移り、パルチザンだったローズ(永宝千晶)は仕立て職人の夫アレクサンダー(上川路啓志)と、生まれたばかりのマーシャを抱き、母モニカ(南一恵)とともに貴族階級の家にやってきた。そこはかつてモニカがメイドとして働き、赤ん坊のローズとともに追い出された家だったのだ。舞台の景はもうひとつ、ユーゴスラヴィア分断が決定した1990年、ローズの葬儀が行われた11月の夜である。

 この3つの冬(=スリーウィンターズ)が行き来しながら、ザグレブに暮らした四世代に渡る女性たちと人々を描く物語である。

 演技スペースを客席が左右から挟む。大きなテーブルに数脚の椅子、ベッドがふたつ、食器戸棚の置かれただけのシンプルな作りだ。人物は舞台左右、ごくわずかに客席通路からも出入りする。数十年に渡る物語が時系列ではなく、交錯する作りだが、舞台上の壁に年代が映写されるので混乱はしない。二世代、三世代が交わる場面もあり、人物によっては無邪気な子どもと年ごろの娘、青年期と老人を演じるところなど、俳優の実年齢と役柄、役柄は父と娘だが俳優同士の年齢は…といったところもある。しかしまったく不自然ではなかったのは、時空間が交錯する構造を自然に受け入れることができたこと、個々の人物に起きた出来事を越えた時代の流れを見通す視点が本作を貫いているためであろう。

 貴族階級に支配されたモニカ世代、ナチスの権力と闘ったローズ世代、そしてその娘、孫の世代。個人の力ではどうしようもない時代の波に襲われる恐怖や、夫婦が諍い、断絶に至る絶望の様相や、結婚式当日になぜここまで…等々、まことに痛ましい。しかしこの家で暮らしてきた各世代の人々が、過去の人々とすれ違いながら、相手を抱きしめ、自らを抱きしめるかのような切なさが客席を包み込む。休憩を挟んで3時間の上演時間を長いと意識することなく、舞台の人々とともに、数十年間の旅路に同伴させてくれるのである。

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