因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

七里ガ浜オールスターズ第4回公演『向日葵と夕凪』

2009-07-12 | 舞台
*日々野克己脚本 瀧川英次演出 公式サイトはこちら 渋谷ギャラリールデコ4F 12日で終了
 ブラジルやチェルフィッチュの舞台に客演していた瀧川英次がずっと気になっていて、彼の本拠地である七里ガ浜オールスターズの公演をようやくみることができた。すっかり通い慣れたルデコだが、行く芝居ごとに見事に異なる空間を楽しめる。上のフロアの音楽やおもての騒音もよく聞こえるわりに、芝居をみることが妨げられたという記憶がない。今回は海辺の小さな町にあるバーが舞台だ。町の高校の名物美術教師が亡くなり、その葬儀のあと。4人の男女の過去とそれぞれ思いが交錯する60分である。
 交わったことの痕跡が心だけではなく、からだに残ってしまう女と気づかない男。両者の決定的な違いが悲しく提示される。高校生同士だった2人(瀧川英次、山崎ルキノ)と、教師と生徒の間柄だった2人(山本佳希、松本美香)に同じような過去があったことが同じ日に知らさせてしまうという展開には少々無理があるし、因幡屋は計算が苦手でして、会話の中に「何年前」とか「彼女はわたしのいくつ下」とか、登場人物の現在の年齢やそのときにいくつだったかなどが、ちゃんと整理できなかった。岩沢が43歳であることは早々に台詞で示され、しかし彼の「43歳」だけが妙に具体的に強調されているように感じられる。見た目と実年齢のギャップには個人差があって、そういう面からも本作の4人の構成は微妙な印象だ。ただそういうあれこれは大きな妨げにならず、舞台の会話に終始引き込まれた。

 ずっと言えなかったこと、知らなかったこと。取り返しがつかないこと。今わかっても過去に戻ることはできない、けれど何とかしたい。どうしようもなく辛い思いに苦しむ4人を、間近で見ていることが申しわけないような気持ちになってくる。特にそれまでどこか気を張りつめて無理をしていたかのような山崎ルキノが最後にみせる泣き顔には「やられた」と思った。夕凪の海や向日葵の丘が、実際には見えないのに感じられる。苦くて悲しい余韻の残る60分であった。
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