因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

リーディング公演『鬼ものがたり』2021

2021-09-26 | 舞台
*桑原茂夫テキスト構成・演出 藤井貞和テキスト監修 鳥山昌克【リーディング】福原千鶴【鼓】 新宿・SPACE雑遊 25、26日 
 平安時代、絢爛たる王朝文化と対をなす如く、漆黒の闇に包まれた世界があった…「今昔物語」を素材に、鬼と人間が織りなす愛と苦しみ、慟哭の数々を「鬼ものがたり」として桑原茂夫が構成・演出するリーディング公演を観劇した。

 読み手の鳥山昌克は劇団唐組結成以来の最古参として活躍した俳優だ。自分の唐組観劇は2015年がスタートのため、紅テントにおける鳥山の雄姿を見ることは叶わなかった。堀切直人編著『唐十郎がいる唐組がある二十一世紀』には、鳥山が主演から仇役、悪役まで自在に演じ、数々の唐作品の名台詞で客をうならせたこと、長口舌に「うっとり聞き惚れた」、「抱腹絶倒、空前絶後」等々惜しみない称賛が綴られ、「彼の体には芸の引き出しがいくつも作りつけられていて、機に応じてその数ある引き出しを次々とあけていくからこそ、これほど自在なのだ」と、その実力を語っている。今更ながら、鳥山の紅テント芝居に「間に合わなかった」ことが悔やまれてならない。

 今回のリーディング公演チラシには「唐十郎や蜷川幸雄が舌を巻いた怪優」のキャッチコピーが踊る。果たして、どの引き出しからどんなものが出てくるのか?

 舞台上手は太鼓などの楽器が置かれた福原千鶴の演奏スペース、下手に丸椅子がひとつ、掻い巻き布団が赤い裏地をなまめかしく見せて拡げられており、鳥山は頭髪を剃り上げ、粗い織の着物に袴すがたで舞台に登場する。やがて掻い巻き布団を纏い、読み始める。福原は、「詩人やジャズメンを鼓でかどわかした妖姫」とチラシに記されている通り、冒頭はギターを弾きながら美しく伸びやかで、おどろくほど高い音域の歌をさらりと歌い、そのあとは鼓や太鼓や鉦などさまざまな楽器を自在に操りながら、冒頭とは別人のように太い声も聴かせる。このリーディングと音楽の「競演」は非常に見応え聴き応えがあり、観客を劇世界へぐいぐいと引き込んでゆく。

 鳥山は物語に登場する修行僧のような扮装であるが、片目だけ黒く太い目張りを入れており、それが時おり鬼のようにも見える。人が鬼や霊魂など人でないものに出会い、翻弄される恐ろしくも悲しい物語4編が語られるのだが、人と鬼たちは相対する関係ではなく、何かのはずみに人が鬼になり、あるいはその逆もあって、両者はぶつかり合い、交じり合いながら生への執着、死への恐れに苦しむ。

 あいだに休憩を挟み、鳥山が1編15分強の物語4編を読み通す構成である。ひとりで読み通すのは心身ともに大変なことであろう、後半になるにつれて語尾の扱いや、長い一文の息継ぎの箇所、間の長さなど、違和感を覚える場面が散見したことは否めない。

 以前阿部壽美子がプロの俳優を対象に開いている朗読教室を見学した際のことだ。阿部が何度も口にしたのが「生理」ということであった。演じる役によって「声を変える」のではなく、「生理を変えるのだ」と指導したのである。そうすれば女優が男の役はもちろん、動物や小鳥、森羅万象を演じることが可能になると。

 これは男優が女の役を演じることも同様であろう。今回の物語にはいたいけな少女から、妙齢の魅力的な女性、高貴な姫君などが登場する。さまざまな人物のことばを語り、演じる上で、鳥山がどのような意識で臨んでいるのか。残念ながら今回のステージでは測りかねた。鳥山はこれまでにも自身の企画によって泉鏡花作品を構成・演出する公演を行っており、次なる出会いがその答を見つけ、彼の持つ多くの引き出しを実感を以て感じ取る一歩になることを期待している。
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