因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

劇団印象『枕闇』

2008-09-15 | 舞台
*鈴木厚人作・演出 公式サイトはこちら タイニイアリス 公演は10日で終了
 誰かを好きになったとして、その人がどんな本を読んでいるのかは大変興味深く、好きな食べものや着るものの趣味よりも重要かもしれない。劇団印象の新作は、舞台一面に本棚が作られており、その前でひと組のカップルがからだを寄せ合って本を読んでいる場面に始まる。いや正確には熱心に読んでいるのは彼氏であり、彼女は2人でする食事やその他のことが気になってしようがない様子だ。彼氏は3度の食事よりも本が好きなのだ。本とわたしとどっちだ大事なの?!と叫びたくなるところだが、おっとりした風貌の彼氏(竹原じむ/フルタ丸)は天真爛漫で暖簾に腕押し、一見気の強そうな彼女(山田英美)は恋に不器用なタイプで、2人の様子は微笑ましくももどかしい。そこに彼氏のみる夢の中にいろいろなものが現れて舞台は大混乱に。

 これまでみた3作(1,2,3,4)。いずれにも主演の加藤慎吾が、今回は脇にまわった。ブラジルへの客演などがあったせいだろうか、表情や立ち姿がドキッとするほど逞しく、男っぽくなっているのに驚く。また毎回目をひくのが坂口祐による舞台美術である。舞台一面の本棚が終幕の一瞬、目の覚めるような美しいステンドグラスに変わる。あの一瞬だけとはもったいなくも、何と贅沢な趣向であろうか。

 天井が低く、どちらかというと横長のタイニイアリスの空間の使い方にも手慣れた感じがするし、客席にも安定感がある。鈴木厚人の作風には、たとえば続発する無差別殺傷事件や格差社会、景気の低迷などの世相に振り回されず、自分の描きたい世界にきちんと向き合っているところが感じられる。子どもが産まれること、食べること、結婚すること、夢をみることなど、どれだけ科学技術が発達しようと解明し尽くせない事項である。人智の及ばないことに対して、演劇という非常にアナログな方法で、必要以上にねじ曲がらず素朴に考えているところが好ましく思える。しかしできればもっと冒険をしてみてもいいのでは…と思っていたら、来年秋に吉祥寺シアターで『父産』が再演される由。タイニイアリスとはいろいろな面で大きく異なるあの空間を、印象はどのように彩っていくのだろう。

 

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