因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

劇団文化座公演155『炎の人』

2020-02-25 | 舞台

*三好十郎作 鵜山仁演出 公式サイトはこちら こくみん共済coopホール/スペース・ゼロ 27日終了 合同公演を含めた文化座の三好十郎作品観劇の記事→『稲葉小僧』『廃墟』『その人を知らず』『夢たち』

 10分の休憩を挟んで3時間越えの大作だ。新型コロナウィルス災禍の渦中、開催側も観客側もまさかの事態に困惑、翻弄されながらも、劇場で公演が行われ、それを観るという行為が、いつもよりいっそう大切に思われる一日であった(公演は29日までの予定であったが、28,29両日は中止となった)。本作は1951年劇団民藝が岡倉志朗の演出で初演し、ヴィンセント・ヴァン・ゴッホは、滝沢修の当たり役となった。自分がはじめて本作を観たのは、89年のサンシャイン劇場での上演で、おそらく滝沢最後のゴッホであったのではないだろうか。以後、栗山民也演出、市村正親主演のホリプロ公演、鵜山仁演出、仲代達矢主演の無名塾公演はいずれも観ていない。

 文化座は58年、佐佐木隆演出、森幹太のゴッホで初演し、以来再演を重ねてきたが、今回は67年の以来の再演となる。半世紀も上演されていなかったことに改めて驚くが、今回の公演パンフレットに、文化座主宰の佐々木愛が、司修、窪島誠一郎との座談会で、「うちの力ではとても上演できそうにないと諦めていたが、『旅立つ家族』で韓国の画家役を演じた藤原章寛に、ゴッホができるかもしれないという思いが起こった」と語っている通り、藤原章寛という俳優を得て、満を持しての『炎の人』公演に相まみえた幸運を感謝するのである。

 これまで自分が観劇してきた文化座の舞台を思い起こすと、劇団公演であっても他劇団から演出家、客演俳優があったりと、柔軟性があると見受けられる。今回も演出は文学座の鵜山仁であり、ゴーガン役に同じく文学座の鍛冶直人が出演している。ゴッホ役を外部から招くこともできたはずだ。それを「うちの力」が十分にあると確信を得るまで半世紀かかったこと、37歳で亡くなったゴッホ役を、同年齢に近い33歳で、文化座の俳優の藤原に託した劇団の覚悟を思うのである。もちろん藤原ひとりではなく、劇団全体に力がなければ、やはり本作の上演は難しいだろう。

 非常に好ましい印象があったのは、今回の舞台がベテラン俳優(あるいはスター的な俳優)を中心に据えたによる「座長芝居」になっていなかったところであろう。ゴッホという、よく言えばエキセントリックな、言いかければ極めてはた迷惑な人物が、自身はもちろん周囲の人まで傷つけ、振り回しながら苦しみあがく様相がこれでもかと続く。ゴッホは相当の力量がなければ演じ通せない難役であることは確かだ。しかし忘れてはならないのは、本作がゴッホをめぐる人々の群像劇であり、ゴッホが生きた19世紀の物語が、三好十郎が生きた時代から、さらに2020年の今舞台を観ている客席にまで連なることである。それを実感させるのがエピローグだ。

 耳に包帯をしたゴッホが病室でカンバスに向かい合っている。そこへ登場人物が一人二人と現れて、ゴッホの最後の日々を淡々と語り、ゴッホに語りかける。19世紀のヨーロッパの人々を描きながら、最後は日本人の物語になっているところに、三好十郎がなぜゴッホの生涯を書いたのかが示されるのである。「わたしは憎む」の「わたし」は劇作家その人だ。小さな花束を「飛んで来て、取れ」、拍手を「飛んで来て、聞け」と、劇作家自身が戯曲に登場し、人物に語りかけるのは、かなり特殊な形式であろう。しかしこれを言うための、ここまでの3時間の物語であった、わたしたちへの舞台だったのだと納得できるのである。

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2 コメント

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すごくよかた (ちかちゃん)
2020-03-01 00:08:45
炎の人を27日に観劇しました。ゴッホの藤原さんをはじめ、ほとんど存じ上げない文化座の公演でしたが、本当に感動しました。民藝滝沢修さん、ホリプロ市村さんの舞台とは全く違う文化座の芝居でした。
藤原さんに引き込まれ、最後まで目が離せなかったです。終わりの挨拶で「千秋楽になります」と言われでびっくりしました。
これからの活躍も期待しています。
ぜひ頑張ってください。
Unknown (因幡屋)
2020-03-02 12:52:01
ちかちゃんさま、当ブログへのお越し並びにコメントをありがとうございました。劇団に「ゴッホ役者」を育てることの難しさ、それゆえ今回の上演がいかに貴重であったかを改めて思います。お互い観劇が叶って幸せでしたね。

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