因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

風琴工房presents 『insider hedge2』

2016-07-30 | 舞台

*詩森ろば作・演出 公式サイトはこちら 下北沢・ Half Moon Hall 31日まで  (1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19

 2013年秋に上演された「本格経済演劇」(公演チラシより)『hedge』の続編である。会社を買収し、業績を挙げて利益をゲット、そして出資者に還元する「バイアウト」を行うマチュリティーパートナーズのその後の物語である。

 風琴工房といえば下北沢のザ・スズナリが常打ち小屋と思い込みがちであるが、今回は同じ下北沢でも、駅から徒歩10分、閑静な住宅街のなかにあるHalf Moon Hallが会場となった。入口は普通の家の玄関くらいで、あまり広くない。靴を脱いで上がる。そこから階段を下りると、天井は高く、ゆったりとした空間の立派なホールではないか。基本的にミニコンサートやリサイタル、展示会やさまざまなイベントを行う多目的ホールで、演劇専用の建物ではないらしい。今回は中央にグランドピアノがどっしりと置かれ、その左右にカウンターのようなデスクが伸び、丸椅子が並ぶ。コンクリート打ちっぱなしの壁に「insider」と映写され、ホールぜんたいで開演を待ち受けるかのような雰囲気だ。中央のグランドピアノには作曲の後藤浩明が位置し、生演奏付きの贅沢な上演である。

 続編だけあって、芝居の構造や運び方も『hedge』の形式と同じである。ラフな服装の俳優たちが次々に登場し、本作について、前回からのメンバーと今回参加のメンバーどうしの掛け合いなど、実に賑やか。そこからビシっとしたスーツに着替えて本編がはじまるあたりのぞくぞく感!前作の雰囲気が鮮明に蘇った。

 経済がテーマであるから、劇中に専門用語がたくさん出てくる。ありがたいことに、前作を見ていないお客さまのために、俳優が人物構成や物語の流れを説明し、用語解説を行う場面もあって、まことに親切だ。開演してほどなく、遅れて来たお客さまを誘導するための「ひと息」も劇の流れのなかに巧く組み込まれており、ホスピタリティに富んだ演出だ。

 今回はマチュリティーパートナーズにインサイダー取引の疑いありと、証券取引等監視委員会の役人たちが乗りこみ、社員一人ひとりにヒアリングを行う。そのあいだに『hedge』の回想場面も折り込みながら、次第に真相に切り込んでゆき、苦い結末を迎える。

 前作の振りかえりや経済用語の解説があるのは大変ありがたい。客いじりとまでも言えないくらい上品な呼びかけなども芝居の感興を削がない範囲であり、堅苦しく難解な経済問題を扱う舞台を楽しく、躍動感のあるものにしている。しかしながら、俳優の演技がいささか強すぎるところもあり、「もう少し静かなら」と欲が出るのもたしかである。用語の説明にしても、劇作家の手腕をもってすれば、会話のなかで観客に伝えることができるのではないか。また劇中にダンスというほどではないが、俳優が椅子を使ったムーヴメントがあり、皆さんとても達者にしておられるので心苦しいが、なくてはならないものではないだろう。インサイダー取引をめぐる男たちの心の様相を、もっと見せてほしい。

 当日リーフレット掲載の詩森ろばの挨拶文の最後、「経済はわたしたちの人生と切っても切り離せません。なのになぜわたしたちはそのことをこんなにも知らないのしょうか」の一文が心に響く。眩暈のしそうな日盛り、経済効率がよいとは言えない演劇が、経済をこんなにも鋭く鮮やかに見せられることに高揚しつつ、駅への道を歩いた。

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