因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

OM-2『ハムレットマシーン』

2018-03-22 | 舞台

*ハイナー・ミュラー作 真壁茂夫構成・演出 公式サイトはこちら 日暮里サニーホール 24日まで 関連企画 現代劇作家シリーズ⑧ハムレットマシーン フェスティバルのサイトはこちら
 劇団サイトに掲載の過去公演の劇評を読むと、『ハムレットマシーン』のみならず、OM-2の舞台は見る人に鮮烈な印象を与え、考察の意欲を湧き起こさせるものであるらしい。90年代の終わりの錬肉工房公演による本作(岡本章演出)の観劇は大変な難行苦行であった。どこからどうやって舞台に触れてゆけばいいのか皆目見当がつかず、頑なまでの苦手意識が備わってしまったのである。基本的に観劇には期待を以て臨むのであるが、今回については不安と気構えが支配するものであった。しかし1977年に発表された本作は未来社刊行のハイナー・ミュラーテクスト集1のシェイクスピア・ファクトリー「ハムレットマシーン」にはページ数にしてわずか15ページなのである。意を決して読んでみると、これが意外とおもしろい。訳注が多いことにまたしても怖気づきそうになったが、一つひとつが解読のヒントや道筋であり、『ハムレットマシーン』への歩みを確実に支えるものであると実感してからは、ページの行き来も苦痛ではなくなった。

 日暮里サニーホールは普通のホテルの宴会場だ。整理券を持って開場を待つ観客の層は思ったより幅広い。ロビーの椅子にかけていると、対話による戯曲形式を解体し、再構築した「前衛劇」で、上演不可能とも言われた難解作であることや、2003年の初演から東京のみならずヨーロッパや韓国でも絶賛されたOM-2による「おそらく今回が最後」(公演チラシより)という『ハムレットマシーン』を待っているということが、不思議に思えてくるような雰囲気である。

 演技エリアを客室が円形に囲み、四隅には機材を組んだバルコニー風の席もある。高い天井から巨大な白い板が舞台を真ん中から分断するかたちに吊り下げられ、上演が告げられるも数分間何の動きもないまま、「これにて本日の上演を終了いたします」とアナウンス、数名の観客が拍手して退場するが、これは「仕込み」であろうと予想できた。あざとさがなく、自然であるのは不思議だ。

 それからのおよそ90分、目の前で起こったことを具体的に書き出すことはできるし、それに対する個々の感想もある。だがいつもの観劇とその後にブログにまとめる段取りとはちがう方向へ心が動いている。「ハムレットだった男2」役の佐々木敦が「私はもう死にたくない。私はもう殺したくない」と叫びつづける場面で、観劇前は想像もしなかった高揚感や解放感が心身に沸き起こってきたこと、最後の最後でのオフィーリアの場面については不快感を示す観客もあり、それに少しだけ安堵する気持ちにあって、すべて含めてまぎれもなくOM-2だけの『ハムレットマシーン』であることを体験した。

 冒頭の「これにて終了」の場面を思い出す。これは観客の挑発かもしれないが、従来の演劇、それを見る観客の認識に対して、「すべて終わりである」と宣告し、ここから違う場所へ突き進んでいきますよという合図だったのではないか。 

 今夜がようやく自分と『ハムレットマシーン』との旅の始まりになった。苦手意識が薄れたわけではないが、必要以上の気構えからは多少解放されたようである。しかし油断はならない。来月からはじまる「ハムレットマシーンフェスティバル」、心して向き合おう。

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