因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

ネットで観劇☆東京夜光『台風とノラと私』~せんだい卸町アートマルシェ2020 -CONBINATION STAGE-

2020-10-16 | 舞台番外編
せんだい卸町アートマルシェ」(以下おろシェ)は、宮城県仙台市の「せんだい演劇工房10-box」と、同「能-BOX」を拠点に、物流の拠点であり、問屋街である仙台市卸町をアートの新たな発信地として発展させたいという思いのもと、2017年より開催している演劇フェスティバルである。全国各地から劇団やアーティストを募り、劇場での出会いや交流を大切にする「おろシェ」だが、4回目を迎えた2020年は、コロナ禍を受けて有料のオンラインプログラムも設けられた。おろシェ終了後16日から18日まで、上演の演目すべてに加え、場内の「ウッドデッキ」の様子も見ることができる。まずはbox-1で上演されたCONBINATION STAGEのAプロ、東京夜光の舞台の視聴の記録から。

*川名幸宏作・演出(1,2,3,4,5,6,7,8)公演公式サイトはこちら box-1 11日終了(テイクアウト配信は18日終了)
 昨年のおろシェ2019に参加した川名は、その際の出会いやさまざまな体験について、(おろシェの)期間中に楽屋オチのつもりで初稿を書いたところ、「周りの方々に『これは真剣につくった方がいい』と真顔で言われ」、「1年間ゆっくりあたためてきた大切な作品」(公演リーフレットより)として、おろシェ2020にお目見得の運びとなった。

 まだ20代前半と思しきコトちゃん(小山内琴星)は役者を志望して東京に出たものの、演劇公演の制作の「手伝い」が続いて結局故郷の仙台に戻り、地元の公演の制作の「手伝い」をしている。ちょうど今は東京から来た劇団の公演の現地制作の、ここでも「手伝い」をしている。台風のため公演が中止になった。東京の劇団のベテラン制作者のミワさん(東澤有香)と一緒に、地元の老舗劇団の制作者で、若い演劇人に対しても手厚いマルオカさん(丸山港都)の家での一夜を描いた30分弱の物語である。

 ほんとうは〇〇をしたいのだが、△△をしている。それも本腰を入れるわけではなく、どこでも「お手伝い」という中途半端な立ち位置であることの葛藤や屈折を抱えたコトちゃんは、前作『BLACK OUT』の主人公(丸山港都が演じた)の前段階のようでもあり、自意識過剰で不器用な振る舞いの数々は、「ここにもいたか」的、今や「川名作品あるある」の人物である。しかし既視感やパターン化している印象はない。

 3人そろっての会話のなかで、コトちゃんの独白というより、客席への語りかけが交錯したり、自分が風呂に入っているあいだに、ミワさんとマルオカさんが自分のことをあれこれ言っていたのではないかという妄想にかられていると客席に訴えかけたりなど、実際の会話に、コトちゃんの心のなかの声が入り混じる巧みな構成がおもしろい。演じる小山内琴星は、技巧的なあざとさが全く感じられず、こじらせ演劇女子を痛ましいまでに好演する。

 対してベテラン制作者役の東澤と丸山は、公演リーフレットに「演劇おじさんおばさん」と書かれているほど中年には見えないが、さりげなく経験値を感じさせて嫌味がない。

 コトちゃんは、一人称、つまり自分のことを「自分」と話す。「自分がやります」、「自分は大丈夫です」という口ぶりは、若い女性にはいささか不似合いであり、「やめたほうが」と指摘もされるが、無意識に他者と距離を取り、自己を防衛するためであろうか、コトちゃんは「自分呼び」をやめられない。

 が、浸水しそうな車を移動させてずぶ濡れになり、3人でカップラーメンを食べたあと、コトちゃんは客席に向かって、「わたしは」と語る。相手との距離を縮めることにためらい、自己を扱いあぐめいていたところから、「わたしは」と明確な存在の主張の一歩を踏み出したのである。

 『BLACK OUT』は本当に素晴らしい舞台で、演劇雑誌「テアトロ」や「悲劇喜劇」でも取り上げられる話題の1本となったが、ここまで作者自身を投影した作品を発表してしまうと、このあとの創作はどうなるのかという危惧がある。しかしコロナ禍以前の経験がベースになっているとは言え、今回の『台風の~』には『BLACK OUT』の切羽詰まった重苦しさをさらりと躱す軽やかさがあり、前述の既視感がないこと、パターンと感じられない理由はここにあるのだろう。

 これまでの作品を思い返してみても、川名は自分自身を色濃く投影してはいるが、自己と作品とのあいだには冷徹なまでの距離、客観的な視点を確保している。繊細な筆づかいではあるが、思いのほかしたたかでもある。コトちゃんがたどたどしく懸命に「自分は、自分は」と繰り返すのを聴きながら、「この先は」という前述の思いは杞憂であると密かに確信したのであった。
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