因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

パラドックス定数第29項『東京裁判』

2012-08-02 | 舞台

*野木萌葱作・演出 公式サイトはこちら pit北/区域 12日まで(1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15)
 劇団随一の人気演目であり、自分もパラ定のなかでもっとも好きな舞台である。再再演を知るやつんのめるように優先予約を申し込み、強引にというより、ほとんど暴力的に知人を誘った。
 2009年の再演がはじめての観劇だったが、このときは舞台だけでなく客席の熱気に圧倒されたせいか、多少意識が遠のくところもあった。しかし今回は最後までしっかり覚醒して、まことに充実した体験となった。
 それなのにブログの過去記事を読み直して愕然とした。今回の自分の印象が、前回とまったくといっていいほど変わらないこと、いや変わらなくてもいい。それだけ作品が魅力的であり、上演を繰り返しても色あせず、ますます力を発揮しているということだから。
 変わらなくてはならないのは、作品に対する自分の姿勢、舞台に圧倒されるだけでなく、そこから自分のことばを探りだそうとする気合いである。かろうじてクリアできたのは、知人をお誘いしたことだけだ。パラドックス定数はもちろん、いわゆる小劇場系の観劇がはじめての方であり、よくおつきあいくださったと感謝している。アンケートには何と記入なさっていたのかしら。

 自分が本作から受けとるものはさまざまだ。極東軍事裁判という一筋縄ではゆかない複雑で難解な近代史上のできごとを、5人の弁護人のディスカッションに、客席を判事や検察人に見立ててゆるぎない舞台劇に構築した劇作家の手腕に感嘆すると同時に、戦争を体験しない世代がこういう形で戦争で傷ついた人々の痛々しい心象や、ことばひとつひとつを吟味しながら相手と戦い抜く姿を描こうとした心意気、そしてこの硬派な作品を受け入れた多くの観客が存在することに、励まされ、希望がわいてくるのだ。

 パラドックス定数は、作・演出の野木萌葱の旺盛な劇作と実力のある俳優陣によって抜群の安定感があり、すでに多くのファンをつかんでいる。しかし演劇業界だけなく、もっと広くより多くの人の目に触れて評価されていいのではないか。とくにこの『東京裁判』は。

 もうじき8月15日がやってくる。pit北/区域の劇空間をぞんぶんに使った『東京裁判』であるから、劇場に足を運び、5人の弁護士たちから睨まれ、喧嘩を売られる検察人になった気で臨場感を味わうのがいちばんだ。DVD制作というのはいささか安易だが、よくよく吟味されたカメラワークでテレビ放映するなどというのは邪道なのだろうか。
 テレビで放映されている何かの舞台中継を「なぜこういう内容のものをわざわざ舞台にするのか」と言っていた手厳しい知人も、『東京裁判』なら身を乗り出すと思われるのだが。

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