因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

東京ハートブレイカーズ 『フィッシュストーリー-Fish Story-』

2011-07-01 | 舞台

*伊坂幸太郎 原作 瀬戸山美咲 脚色・演出 公式サイトはこちら 吉祥寺スターパインズカフェ 3日で終了
 小説の舞台化にはさまざまな方法がある。きっちりと、ある意味「ベタ」な手法で文学の世界を舞台に乗せる。無理も生じるが、それだけ原作を重視し、忠実でありたいという作り手の気持ちは伝わる。また小説を「読む」行為じたいを舞台でみせ、リーディング、朗読劇的に構成する方法もある。たとえば桑原裕子が構成・演出するKAKUTAの「朗読の夜」は、小説を読むこと、舞台をみることの両方の楽しみが味わうことができる(1,2,3)。
 小説世界の何を、いかに舞台に可視化させるか。それが脚色(あるいは構成)、演出する人の腕のみせどころになる。

 スターパインズカフェは基本的にライブハウスである。開演の1時間も前にオープンするのも、客席で軽く飲んだりしながらリラックスして待つためであろう。
 自分はこういう場所にほとんどなじみがなく、ステージにはドラムセットやギターなどが置かれているのをみて、「バンドの生演奏付きの芝居だろうか」と予想した。

 本公演は「東京ハートブレイカーズⅥ フィッシュストーリー-Fish Story-」である。東京ハートブレイカーズというバンドがあって、彼らのライブ演奏のみならず彼ら自身も『フィッシュストーリー』の登場人物として舞台を構成する。時制の異なるシーンがかわるたびにバンドの演奏があり、その歌は舞台の重要な要素となる・・・というとらえ方で合っているだろうか。この構成が理解できるまで少々混乱、困惑した。また理解できたあとも、それを受け入れて楽しむには自分がこういう場所にほとんど馴じみがないこと、東京ハートブレイカーズについて寡聞であることが影響し、演劇好きというよりバンドのファンが多くを占めていたと思われる客席のなかで自分は大変場違いな存在に感じられ、複雑な居心地の2時間であった。

 自分で戯曲を書き、演出することとはまた違う面で、原作があるものを舞台に構成するむずかしさがある。それに瀬戸山美咲がどう取り組むのかをみたかったのだ。舞台の熱気を客席は素直に受けとめて、たいへんいい雰囲気だ。作り手も本作を大いに楽しんで力いっぱい取り組んだことがわかる。しかしバンドの演奏と芝居の部分のつながりにもう少し有機性がほしいし、個々の人物の造形が戯画化されてドタバタ風になっており、確かに客席は沸いていたけれども(その反応は、いわゆる小劇場の客席に比べると非常に良心的であった)、笑いをとるよりもその人物の心象をもっと深く知りたいと思う。
 伊坂幸太郎の小説は、時制や場所が互いに少しずつリンクしながら次第につながっていく巧みな構成を持つものが多く、本作もまさにそうである。舞台にのせるには多くの困難があるだろうが、その困難を逆手にとった大胆な構成・演出もまた可能ではないだろうか。

 原作があるからそう簡単に台詞や人物を変えたり加えたりはできないであろうが、瀬戸山美咲は劇作家としてもっと書ける人であり、繊細な演出ができる人であることを確信している自分からすると、今回の舞台に対して疑問や困惑を抑えることができなかった。
 しかしあれから伊坂幸太郎の小説を少しずつ読むようになった。これを舞台にするならどの劇場でどの俳優さんが、どんな音楽で登場するだろうかと想像しながら。

コメント

因幡屋7月のなにか

2011-07-01 | お知らせ

 もうはんぶんが過ぎたと愕然としていないで、まだはんぶんあるのだと思って励みます。
 いつもよりも厳しい夏になりますが、心身整えて。
東京ハートブレイカーズ 『フィッシュストーリー-Fish Story-』
 伊坂幸太郎の原作。ミナモザの瀬戸山美咲(1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11)
が脚本・演出をつとめる。
ハイリンドvol.11『牡丹灯篭』 劇団史上最も再演希望の高い演目とのこと。今度は日暮里d-倉庫に場所がかわる。(1,2,3,4,5,6,7,8,9,10) 
遊戯空間公演 詩×劇 『つぶやきと叫びー深い森の谷の底で』
 福島に生まれ育ち、高校の国語教師をつとめる詩人の和合亮一氏が震災後にツイッターに発表している「詩の礫(つぶて)」、「詩ノ黙礼」を篠本賢一が構成・演出する。
*きゃべ。第4回公演『小庭のある家』 劇団掘出者公演『チカクニイテトオク』『ハート』、参々々『泣かないで温水』公演に客演していた赤星武が主宰する劇団の公演。
 劇団名は「きゃべまる」と読みます。
文学座7月アトリエの会 『山羊・・・それって・・・もしかして・・・シルビア?』
鵺的(ぬえてき)第3回公演 『昆虫系』(改訂版) 初演は2004年机上風景vol.10として。
 今回は演出を寺十吾(tumazuki no ishi)がつとめる。(1,2,3)
演劇集団円 ドラマリーディングvol.2「岸田國士を読む その1―あゝ、結婚―」 
 「頼母しき求縁」、「葉桜」、「紙風船」を読む。
シアターグリーン学生芸術祭 学生劇団の精鋭11団体が競演する。
 声を出すと気持ちいいの会(1,2)が初参加→芸術祭のサイトに主宰山本タカのインタヴュー掲載 。

 新しい観客の開拓はどの劇団にとってもむずかしく、悩ましい問題であると思う。特に小劇場公演の場合、出演者、制作スタッフが総力をあげて知人友人に声をかけ、懸命の営業努力をして客席を厚くしていることが伝わってくることが多い。それは劇場を温かく親しみやすい空間にすることは確かだが、身内や業界の知り合い、おつきあいや義理のしがらみが多くを占める客席というのは、安定感はあってもどこか風通しがわるく、自分たち(舞台と客席)だけにわかる言語で了解しあっているようで、不自然に思えるのだ。

 テレビは自宅に居ながらにして自由に楽しめる。映画は映画館に出かける手間はあっても、サービスデイなら1000円で済む。演劇はわざわざ出かけてゆき、映画の数倍の金額を費やすことになる。自分は演劇に費やす時間やお金についての感覚がそうとう麻痺していることを否定しないが、たとえばあまり演劇をみたことのない人を誘う場合、「この金額が果たして妥当であるか」を考えざるを得ない。はたと気づく、我に返るのである。

 先日タイニイアリスでの「ドラマツルギ2011」の劇団印象×劇団May公演のさい、(おそらく)小劇場での演劇をみるのが初めてという方とお話をする機会があった。自分よりずいぶん若く(苦笑)、前日に公演のことを知って翌日に訪れたというから大変柔軟で好奇心に富んでいらっしゃる。日ごろ親しい観劇仲間との語らいはもちろん楽しいが、あの日の新鮮な出会いは芝居の力によって導かれたとしか思えず、劇場通いはますますやめられない。これをご縁に演劇好きになってほしいと願ういっぽうで、あまり「演劇おたく」にならず、さまざまなものに幅広く接してほしいとも思う。
 観劇仲間に恵まれていることを感謝しながら、自分のまわりには演劇をまったくみない人、関心のない人、さらに演劇は嫌いだと明言する人がいることを忘れずに、ひとつひとつの舞台に接し、ことばを綴ってゆきたい。

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