因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

アンティークス Vintage6『見上げれば~2つのお話~』

2008-07-03 | 舞台
 作・椎名泉水(studio salt)/岡﨑貴宏 演出はどちらも岡﨑貴宏 公式サイトはこちら STスポット横浜 6日まで
 七夕の季節に、流れ星をモチーフにしたお芝居の2本立て。それぞれ約40分くらい。当日チラシ掲載のアンティークス主宰岡﨑貴宏の挨拶文に「わたしは、天の川をみたことがありません。」とあって、この方は都会育ちなのかな。自分は降るような星空を普通にみて育った。夏の天の川も冬のオリオン座も見上げればそこにあったのだ。しかし最近星空をみたのはいつだっただろう。故郷の帰省はいつも慌ただしい。星空をみると、自分の存在が実に小さく感じられる。この吸い込まれるような空の何億光年もの宇宙のなかで、自分の存在は、その抱える心はいったいどれだけのものなのか。

☆どちらも少しミステリー風、謎解きのような雰囲気があります。未見の方はこのあたりからご注意ください☆

 1本めは椎名泉水の「星に願いを/かけない」星が美しいと評判の山、生憎の大雨に山小屋へ集まってくる人々が過ごす一晩のお話である。お互いに初対面だが、旅先での一種のアクシデントは人の心を少し解放する作用があるのだろうか、少しずつそれぞれ事情や背景が知らされていく。後半、ひとりずつ「ほんとうのような嘘の話」(だったかな)をしていくところが見せ場である。その場にいる人がすべて話し終わったら、その中のほんとうの話が嘘になり、嘘の話がほんとうになる…という時間つぶしのお遊びなのだが、いかにも手慣れた怪談やホラーあり、いささか大風呂敷な将来の夢あり、壊れかけた家族の再生を願う話あり。日常を離れた山小屋で、見ず知らずの人たちとのいっときの交わりの中で、ゲームにかこつけて、つい本気で願いをかけてしまう心のうちが伝わってくる。

 2本めは岡﨑貴宏の「120億年の夜空の下で」女の子たちのグループが芝居作りのために山小屋で合宿をしているらしい。ゴキブリが出たり妙な男が侵入したり、何か事件が起こったことを思わせる場面に始まるが、それがぜんたいを支配するわけでもない。残念ながら集中を欠いて、人物関係や話の流れがあまり頭に入っていないのだが、星の名所に来たのに悪天候で星が見えないという設定は1本めと同じである。見えない星に、人はいよいよ願いを託そうとするのかもしれない。

 明日は星が見えるかもしれない。来年また来たい、そのときはきっと。想像もつかない広大な宇宙のなかで、ひたすらに祈る人の心を考えた。星空は人の心を密やかにさせるらしい。終演後、横浜駅までの道のりを少しゆっくりめに歩く。今日の横浜は曇り空だった。町中で立ち止まって空を見上げるもの憚られ、心の中に故郷の星空を思い浮かべ、今夜出会った物語の人たちの願いが叶うようにと祈りたくなった。

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