因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

モナカ興業#4『不安な人間はなにするかわからない』

2007-12-13 | 舞台
*上野小劇場提携公演 フジノサツコ作 森新太郎演出 公式サイトはこちら アートシアター上野小劇場 公演は9日で終了
 きっかけはえびす組メンバーであるマーガレット伊万里の『チチ』評であった。風変わりな劇団名、行ったことのない劇場、前回と打って変わって饒舌なタイトル。地下鉄を降りてほとんど人気のない通りを歩く。これからどんなものをみることになるのだろう。やっぱり不安だ…。

 客席数は40くらいであろうか。上野の路地裏、居酒屋の地下にあるのが上野小劇場である。舞台には工事などのときに使われる青いビニールシートが幕のように下がっている。開演を告げる俳優がそのシートをはぎ取ると、見えるのは砂利を運び出す作業着姿の人々だ。やがて彼らは女子十二楽坊の曲に合わせてダンスを始める。ここは㈲牧草生活という会社の休憩室券経営者家族の居間らしく、社は中国での仕事の足がかりを掴もうとしており、現地中国からの来客「ヤンさん」をもてなす余興のダンスの練習をしているのだという。しかし指導を頼んだ初老の女性自身の振付がなっておらず、ぜんたいの動きもまとまらない。苛立つ社員たち、ヤンさんはもうじきやってくる…というのが物語の縦軸。経営者である家族は病身らしき父親、家出していたが数年ぶりに戻って来た長女、姉がいない間にうちと会社を切り盛りしてきた次女と、彼女らをめぐる男たちのいろいろ…というのが横軸である、とひとまずは考えた。

 舞台奥にこの部屋を真上からみた図が壁のように作られていたり、父親と娘たちが彼氏のことを話す会話が延々続いたり、登場する人々は苛立ちや諦めや疲労を抱えており、物語の展開がまったく読めない。笑えるところもあるのだが、うっかり無防備に笑って緩さに安心してしまうと、その次にぞっとするような何かが待っているようで、舞台に対する処し方、距離の取り方に終始悩む。森新太郎の演出する舞台をみるのは、確かこれで4回めになるのだが、きっちり構築された戯曲をさばく手並みでもなく、ある程度俳優の自由に任せているようにも感じられないが、70分あまりの時間を飽きさせない。フジノサツコの戯曲は、「こういう人物は現実にもいるかもしれないな」という日常的な入り方ができる部分もありながら、そういう中にあって何かのはずみに噴き出してしまう人の心の不安を描き出す。テーマなこれだ、訴えたいことはこれだと大上段に構えるものではない戯曲をまとめあげる演出家の手腕は、やはり非凡であると思うのである。

 モナカ興行の次の公演は、来年夏下北沢だそうである。便利で通い慣れた場所なのはありがたいが、もう少しこの上野の穴蔵のような小屋に通いたい気持ちもあって、少々複雑なのであった。

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