因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

乞局第12回公演『媚励』(ビレ)

2007-04-15 | 舞台
*下西啓正作・演出 こまばアゴラ劇場 公式サイトはこちら 公演は15日で終了
 劇団初見。みようと思ったきっかけは・・・思い出せない(最近こういうパターンが多い)。公演チラシの色使いがとてもきれいで目をひいた。でも芝居のタイトルの意味も内容もまったく連想できず、そこが知りたかったからかもしれない。

 かつて資産家であった色麻(しこま)家は、一階に姉妹たち、二階に管理人が住み、三階を人に貸している。舞台は二階部分で、椅子とテーブルが置かれて、ちょっとしたテラス風。洗濯機もあり、物干し場も兼ねている。町の文化財的な存在であるらしい色麻家には「色麻保存会」なるものもあって、管理人はそこから派遣されたという。

 こういう設定が現実にあるのかどうかよくわからないが、登場人物たちにとっては日常。色麻家の長女(石橋志保/中野成樹+フランケンズ)は不眠症のヒステリー、三女(伊東沙保/ひょっとこ乱舞)酒乱気味で家主の務めを果たせず、家を捨てて外で暮らしている次女(五十嵐操)が頻繁に帰ってきては家を仕切っている。管理人(池田ヒロユキ/リュカ)は周囲からゲイと思われているが、近所の主婦(舘智子/タテヨコ企画)は彼にご執心である。

 ちょっと書き出しただけでも、相当に妙な人たちばかりが次々に現れては去り…という状態がいつ終わるともなく続く話なのである。昨年みたブラジルの『恋人たち』(そのときの記事)を思い出したが、あの作品には心中未遂を繰り返す一組の男女という核があって、その周囲の人々という形が描けたのだが、今回の舞台は何がどこに着地しようとしているのか、誰に焦点を絞ってみればいいのか、最後までわからなかった。

 ある人物に共感したり感情移入できるところがどこにもない。しかし最後まで飽きずに楽しめてしまった。客演陣には、偶然だが今年にはいってみた舞台に出演していた俳優さんが何人かいる。逆に乞局の俳優が外部出演している舞台もいくつかみた。そのときのイメージは時間がたっていないせいもあって、まだまだ鮮明である。驚いたのは皆そのときとは別人のような造形を見せており、「芸域」や「俳優の個性」というものに対する既成概念が、いい感じで壊されていくのである。

 会話の調子はとても自然で、「いかにも舞台」という感じはしない。冒頭長女とカウンセリングにきた医師(下西啓正)のやりとりから始まるのだが、まるで実際のカウンセリング現場から切り取ってきたような、あたかもドキュメンタリーのような自然な感じで、それが長女がヒステリーを起こしてめちゃくちゃになってしまう。そこが驚くほど芝居くさくないのである。あれほど長女が大声で叫んで暴れているのに。俳優が達者(という表現でいいのか?)であり、作者の筆が緻密であり、演出が巧みであることの証左なのだろうが、その手つきをあからさまに感じさせないところがすごいと思うのである。

 終わり方には正直不満が残ったが、変に結論めいたものがなくてよかったのかもしれない。お芝居は終わってもわたしたちの現実の生活は続いていく。それと同じように、あの色麻家とそこに関わる人々の日常もずっと続いているのだろうから。

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