書店のゾーニングとかの話

男性向けポルノ漫画やポルノ小説は一般書店から排除されているという現実。 - Togetter

しばらく前から、Twitterなんかでラノベの表紙がエロいだのエロくないだの、書店の売り場においてこういう本はゾーニングされるべきだのされなくてもいいだの、なんかそんな議論が一部で起きているようなんですけれども。私も過去、書店員として働いていたコトがあったので、そんなやりとりを見ていたらなんか書店の話を書いてみたくなったので、ちょっと触れてみます。ゆーても、私が書店員やってたのって、もう10年以上前だけどね!(一応店長までやった)

私が勤めてた店は都市部ではなく郊外にあるようなお店で、平日であれば地元の学生や主婦、休日であればサラリーマンや親子連れがメインになるような感じ。そんなお店でも18禁の本は取り扱ってはおりましたが、当時でも点数はそんなに多くは無かったです。男性向けの雑誌が少しと、エロマンガくらい。上にリンク貼ったTogetterで挙げられてるフランス書院なんかは取り扱って無かったですね。そういう意味では、自分が書店員やってた頃と、状況は大して変わってないように思われます。

18禁本ゾーニングの方法は、それぞれ雑誌売り場の一番奥とコミック売り場の一番奥にある棚に固める、あとは雑誌は紐で縛る・コミックはシュリンクパックして立ち読みできないようにするコト。とはいえ、コミックは長時間の立ち読みを予防するために全部シュリンクパックしていたんですけども。

シュリンクパックも紐で縛るのも書店にしてみれば面倒な作業で、特に紐で縛るのは機械化もできないので結構負担が大きい。18禁以外でも、例えば女性雑誌、あるいは児童向けマンが雑誌(コロコロや学年誌)なんかは付録をつけるモノが多く、そういうのは全部紐で縛らなきゃいけない。かつ、当時はこういう女性誌やマンガ雑誌は圧倒的な売れ筋であり、いち早く店頭に並べる必要があったため、18禁雑誌を縛って店頭に並べるのは一番後回しでした。

マイナーな出版社の、「一般書店に置くにはこの表紙エグくないか」と思えたエロ雑誌なんかは、もう店頭に並べず即返品する有様。ただ、これって「こんな本置いて子供に悪影響があってはいけない」という思いでは全然無くって、「紐で縛る手間を掛けてまで店頭に並べたところで売れないから」という身も蓋もない理由によるものです。サラリーマンのお父さんからのアツいニーズがあって、エグめのエロ雑誌が飛ぶように売れるような状況があるならば、喜んで店頭に並べていたと思います(一番奥の棚にはなるけど)。

なぜ我々が入荷して梱包を解くと同時に必死こいて付録付き女性誌やコロコロを縛っていたかといえば、それが飛ぶように売れていたからなワケでしてね。

以前見かけた記事で

一方で、別の胎動も生まれており、それは「売れるものはとても売れる」という現象です。数学的には「負の二項分布のグラフが、より立った状態」なのですが、つまり大ベストセラーはより売れ、中堅以下の本はさっぱり売れなくなる業界環境だということです。

via: 「本が読者に届かない」Amazon商法に公取委が突入で炙り出される出版業界の予後不良(山本一郎) - 個人 - Yahoo!ニュース

なんていう指摘もされていましたが、これは自分が勤めていた頃から見られていた傾向です。テレビなんかで紹介された本、芥川賞・直木賞を受賞した本・『このミス』で上位にランクインした本……なんていうのはバンバン売れる一方で、特にそういった話題性の無い本が売り上げに占める割合っていうのはそんなに大きく無いワケです。

もちろん、種々雑多な本を並べてこそ書店の売り場の魅力が上がり、それが集客力にも繋がるという側面もあるとは思うんですが、数字として見るとやはり「売れる本をしっかり仕入れてきっちり売る」コトが店を維持する上で必要不可欠だと悟らざるを得ないワケです。再販維持制度委託販売制度は、売れ筋の本や大手出版社の本だけに偏らず、大小様々な出版社の種々雑多なジャンルの本を、なるべく多く小売店に陳列してもらうための制度だとは思うんですが、書店にしてみたら返品はできるつっても、いつ売れるかもわからんような本をストックしておきたくなんて無いワケです。色んな人があちこちから集まる都市部のど真ん中にあるような書店ならまだわからんですけど、郊外の書店なんてホントにそんなもんです。

で、そういう傾向が色濃く出てしまうと、書店の本部側も「雑誌やベストセラー書籍以外の売上げ構成比が低いなら、本の売り場減らしてレンタルビデオやCDの販売した方が良くね?」とTSUTAYAやGEOのお店をチラッチラッと見ながら言うワケです。かくして、ますます売り場は売れ筋に絞られた商品構成となり、マイナーな書籍を求めるお客さんはハナから郊外の書店なんぞに期待するコトはなくなり、都市部の専門店に行くか、Amazonで購入するようになるワケです。

ただ、「リアル店舗に無いからAmazonで買う」という行動をし始めたお客さんは、マイナーな本だけでなく、ベストセラーもAmazonで買うようになっていきます。以前「ロングテール」って言葉が持て囃された時期がありましたが、この効果によってのし上がったのがAmazonであり、個々のお客さんの細かいニーズを切り捨て放置した書店はどんどん衰退していったワケですね。再販維持制度や委託販売制度の理念なぞは完全に形骸化しており、かといってその制度に浸りきった書店も出版社も今更それをひっくり返すような胆力は無い。あるとしたらKADOKAWAくらいでしょうか。

で、ちょっと話をラノベの表紙に戻しますと、たとえおっぱいがこれ見よがしに強調された表紙だろうが、電撃文庫のようなメジャーレーベルを奥の棚に分けて置く、なんてコトはしたくないワケです。だって売れるから。特にラノベはコミックと同様、新刊の初速が売上げの過半を占めます。なので、新刊は極力目立たせる必要がある。変に店の奥に置いて、お客さんが「あれ、売り切れたの?」と思って他の店に行ったりしたら目も当てられません。売れる本はきっちり売らねばなりません。ましてや、18禁指定されているワケでも無い本を、店舗独自の判断で売り場を分けるというのはオペレーション上も混乱を来します。

オマケに、今ではどうなっているのか知りませんが、私がやってた当時は電撃文庫などは独自の特約店制度のようなものを作っており、各店舗の売上げをチェックしてランク付けし、ランクが高い店に配本を集中させ、低い店にはロコツに配本数を減らさせるというコトをしていたので、一度売上げが下がっていってしまうと配本が減らされ、負のスパイラルに陥る危険性があったワケです。そうなると、例えば電撃文庫からアニメ化になった作品があって、既刊含めて増刷が掛かっても店舗に入ってくるのはアニメ化されてからずいぶん経ったあと、なんていうお寒い状況にもなりかねません。それを避けるためにも、確実に売らねばならぬのです。

つまり何が言いたいかというと、書店は別に図書館とかそういう公的な空間ではなく、一介の小売店に過ぎないワケですから、当然ながら「何が売れるか」というコトを重視して売り場を考えているワケです。エロ本をバッサリ切る書店が結構あるのは、エロ本の売上げ構成比が大したものではない、それを切るコトにより親子連れの来店が増えるコトが見込め、その方が売上げが上がる可能性があるといった判断があるからでしょう。特にショッピングモールの中にある店なんかはそうでしょうね。売り場面積もそこまで広くないので、エロ本切って話題の本の売り場を拡張した方が良い。

正直、書店としても「多種多様な表現物を店頭に揃えねば」なんていう使命感に燃えている店員なんてほとんど居らず、かといって確実な売上げが見込めるラノベを「この表紙は子供に悪影響を及ぼしかねない!」などといって平積みから外す店員なんてのもほとんど居ないと思います。もしお客さんから直接クレームが来たとしても、適当にあしらって終わりにしたいところでしょう。裏を返すと、いきなりラノベに冬の時代が訪れてさっぱりすっぱり売れなくなってしまったら、ゾーニングどころか店頭に並べなくなるでしょう。

まあ資本主義ってそんなもんだよね、と思いつつ、「売れるものを集中して売ればええんや」という書店の態度がAmazonのアドバンテージに繋がったコトも間違い無く、そうこうしている間に屋台骨だった雑誌の売上げが業界全体でズンドコ下がり、結果としてずぶずぶと沈みつつある書店業界の話を聞くにつけ、ああ書店辞めて良かったなあと思わずにはいられません。また、Twitterでは「表現の自由」「教育上の配慮」「性的搾取」などを巡って高邁な思想に燃える方々が様々な意見をぶつけ合っておられますが、現場の書店員は概ね「なんだこいつらめんどくせー」くらいにしか思って無いんじゃないかと推察します。

なお、私が10代の頃買い集めていた『スレイヤーズ』シリーズの短編集で、白蛇のナーガのイラストがバン!と表紙を飾っている巻は、レジに持っていくのが少々躊躇われたというのはありました。そういう意味で言うと、当時の私であれば、あの境ホラの表紙なんかはちょっと勘弁してくんねえかな、と思ったに違いありません。

【合本版】スレイヤーズすぺしゃる+すまっしゅ。 全35巻 (富士見ファンタジア文庫)
クリエーター情報なし
KADOKAWA / 富士見書房
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