瞬間に恋する。

同じ波は二度と来ない。
同じ風は二度と吹かない。
同じ海は二度とない。
今日の私は、今日しかいない。

たった一度だけ、2人が出会い、ほんの十数秒の
完璧に調和したデートをする。
それがサーフィンやウィンドサーフィンだ。
サーファーやウィンドサーファーはその間、
どこまでも純粋に、
「瞬間」に恋している。

私が忘れられないのは、きっと、
その、「瞬間に恋する」感覚なんだと思う。

瞬間に恋する幸福感を知ってしまった私にとって、
毎日同じ時間に同じ電車に乗って同じ道を歩き、
同じ建物に入って同じデスクに座り、
同じパソコンの電源を入れて同じ電話を取る生活は、
なかなか耐え難いものがあった。

ナマケモノだと言われてもいいよ。

いや、きっと、
家と会社を往復するだけの平凡な毎日
というヤツのなかにも、
新しい人との出会いや、都会のささやかな自然が教えてくれる
季節の移ろいという変化はあるんだと思う。
月は満ちては欠けるし、雨の日も風の日もある。

だけど、四角いビルに埋め尽くされた
都会の自然はあまりにも頼りなくて、
私を抱きしめて、瞬間に恋をさせてはくれなかったんだ。